クリスマスが近いせいか、クラスの女子もみんな浮かれているように見える。
ラブこと島田愛子は、そんな風にはしゃいでいる女の子たちって、可愛いなと思う。
ただ、自分がそうなれるかというと、それはまた別の話だ。
「ねえ、ラブちゃん。飛鳥君にクリスマスプレゼントはあげるの?」
真野美紀が聞いてきた。
「ううん。あたしは、やめとくわ」
「ええ?どうして?一緒に選びに行こうと思ってたのに」
クラスの女子の中でも、真野美紀は特に仲良しのひとりだ。
「また、そんなこと言っちゃって。ライバルが一人減ったって、喜ばなくちゃだめじゃない」
冗談めかしてそう言うと、美紀はほっぺたをふくらませて、
「もーラブちゃんたら。」
と、言った。
「まあまあ。相談だったらいつでも乗るから。がんばんなさいよ」
「うん」
ラブも、一応月城飛鳥のファンクラブの一員ということになっている。
でもそれは、美紀やきらら達のように、本気で飛鳥に憧れているという理由からではなく、
どちらかというと女子との付き合いで入っているようなものだった。
好きな人はいない。
そういうと、大概の女子は目を丸くして、ええーっ信じられない。と言うけれど、
好きな人を作らなくちゃ、と思って作るのも間違っている気がするし、
自分の気持ちに正直でありたいと考えているラブにとっては、
これはこれでいいんじゃないか、と思うのだ。
そういうポジションからだろうか。
ラブはいつも一線ひいて皆を観察するようになっていた。
不謹慎かもしれないが、ラブにとってクラスの大半は、自分よりも子供っぽいなと思う。
自分よりも背が高いきららやゆう、マリアにしろ、男子にしろ。
そんな中で、比較的同じような目線で話ができるな、と思うのが、ひろしと飛鳥だった。
渦中の飛鳥は、女子に囲まれて大変そうだ。
正直、ファンクラブなんてものがなかったら、ラブ自身も、もう少し飛鳥とゆっくり話ができるのだろうが…。
「大変ねえ〜。イベントごとって…」
そう呟いたラブの言葉に、傍の席に座っていたひろしが話しかけてきた。
「なに?ラブったらひとごとみたいに」
「やだ、聞いてたの?」
「ははは、ごめんごめん。でも、ラブってああいうノリに入らないんだね」
「あたし、そういう柄じゃないし」
そう言うと、ひろしは首をかしげた。
「そう?ラブだってノリがいい時は騒ぐじゃないか」
「あたしが燃えるのは、体育大会のときだけよ」
「…そうかな?僕はラブってかなり熱血系だと思ってるんだけどな」
自分ではそう思ってなかった。
「……そうかしら」
うん。と、ひろしは頷く。
「ラブってさ。普段は表立って騒ぐことないけど、ここぞ!っていうときに皆を盛りたててくれるんだよな。
なんか、いいタイミングで、的を得たことを言うっていうイメージがある」
「やだ。そんなこといっても、何もあげないわよ」
そういうつもりじゃなかったんだけどな〜。と、ひろしは頭をポリポリ掻いた。
ちょっと、嬉しかった。
普段、周りのことを一線ひいて見ている自分のことを、ちゃんと見ていてくれた人がいたということに。
実は結構物事に熱中しやすい自分の性格をわかっていた人がいたことに。
いつも、ラブちゃんって落ち着いてるわよね〜、とか、ラブちゃん大人だわ、とか、ノリが悪いな、とか。
何気ない一言が、ちょっと気になる時もあったのだ。
大人に見えても、ラブはやっぱり小学生なのだから…。
嬉しさを隠すように、ラブはにやっと笑って言った。
「あたしのことなんかよりも、もっと気にしなくちゃいけない人がいるんじゃないの?」
「え?」
「ほら」
ラブが目線を動かすと、飛鳥を囲む女子の輪に頑張って入ろうとするクッキーの姿があった。
「…ラブってば」
「ひろし君も落ち着いてる場合じゃないわよ。好きな人にはちゃんとぶつかっていかなくちゃ」
「…ラブには敵わないなあ…」
頬を染めてぼそっとひろしが言ったので、思わずラブは笑ってしまった。
普段は、落ち着いているけど、いいタイミングで、的を得たことを言う。
ひろし君だって、そうじゃないの。
…ただ、恋愛に関しては、あたしのコーチが必要かしら。
笑いながら、ラブはそう思った。
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