花畑
ここのところ、じめじめした天気が続いている。
今年の梅雨は長引いているらしく、なかなか終わらない。
雨がしとしと降る中で登下校するのはあんまりいい気分じゃない。
色とりどりに咲く紫陽花は綺麗だと思うし、ヨッパーは最近蝸牛をたくさん捕まえて楽しんでるみたいだけど、
僕はこの時期はちょっと憂鬱な気分になるんだ。
趣味のUFO探しは出来ないし。
この間なんて邪悪獣カビリアンが出現して、ライジンオーもカビ塗れにされてしまった。
本当に、早く夏が来ないかな。
「あ〜もう。じめじめしちゃって辛気臭いったらないわね」
きららが忌々しそうに言う。
給食の後片付けを済ませて、昼休みの時間。
折角の昼休みだって言うのに、外は雨が降り続いていて校庭で遊ぶことも出来ない。
「ほぉ〜んと。はやく止まないかしら」
れいこもつまらなさそうだ。
「雨だとヘアスタイルが決まらないのよね!やんなっちゃうわよ!」
きららは髪の毛を触りながら言う。
「へーんだ。お前の髪形なんてだれも気にしちゃいねえよ」
あきら君たらまた余計なことを…。
「なんですって!このパイナップル頭!」
きららも負けていない。っていうか、うちのクラスできららを言い負かせる人なんているのかな。
僕が仁君の方に目を向けると…。
仁君はきらら以上にイライラしているみたいだった。
きっと仁君は元気を持て余しちゃってるんだろうな。
教室の中だって言うのにサッカーボールを持ち出して、教室の後ろでヘディングをしている。
「ちょっと、仁!教室でそんなことしたら危ないじゃないの!」
「いいじゃねーか、ちょっとくらい。なんかこう、体がなまっちゃってさ」
「そうだぜ!体育館は6年生が独占しちゃって使わせてもらえないんだし」
と、ヨッパーが加勢する。
「あ〜もう!仁止めろよ!落ち着いて本も読めないじゃないか!」
と飛鳥君が怒鳴った。
どうやらさすがのマリアも、みんなのイライラを抑えることはできないみたい。
美紀とゆうは最近イラストに凝っていて、今も二人でデッサンがどうのこうのと話している。
「あ〜あ。画用紙が湿っちゃってうまく鉛筆がのらないわ」
と、美紀。
「そうね…。なんだかうまく書けないわ…」
ゆうもため息をつく。
「まあまあ、そう焦らないで。」とラブが取り成す。
「雨が続くせいで、店の客入りも良くないのよね。雨って営業妨害だわ!」
と、ときえが憤慨する横で、ポテトが、
「そうそう。雨っていやよね。ポテチも湿っちゃってるわあ」と言いながら袋に手を突っ込んでむしゃむしゃ食べた。
「やだ、ポテト。さっき給食食べたばかりじゃない」と、ラブ。
「あんなんじゃお腹いっぱいにならないもん」
ポテトは口をもぐもぐさせながら言った。
勉君の机の周りでは、大介君とひでのり君が居る。
勉君も湿気にはうんざりしているみたいだ。
パソコンの調子も悪くなるんだって。僕にはよくわからないけど。
僕はUFO雑誌を机に広げた。
本当は、本物を探したいんだけど、しょうがない。
そこへ、給食の後片付けを済ませたクッキーとひろし君が帰ってきた。
本当は、今日の当番はクッキーとヨッパーのはずだったんだけど…どうやらヨッパーったらまたサボったみたいだ。
ひろし君はクッキーを手伝っていたんだね。
「あ、二人ともおつかれさま。」
そう言うと、クッキーはえへへと笑った。
「あれ、吼児君これなに?」とクッキー。
「ああ、最近創刊されたUFOについての雑誌だよ」
「へえ〜。吼児ってマニアックな雑誌もチェックしてるんだな」
と感心したようにひろし君が言う。
「そうかな?自分ではそう思わないけど…」
ひろし君が意外にもこの雑誌に興味を持ったみたいだから僕はちょっと嬉しかった。
雑誌のページをぱらぱらとめくりながら、僕がひろし君に内容を説明していた時…。
どうやらクッキーは興味を持たなかったみたいで、窓の方に寄って行った。
そしていきなり、「あーっ!」と大きな声を出した。
「え?なに?」
「どうしたの、クッキー?」
あんまり大きな声だったから、僕らだけじゃなくて、クラス中のみんながクッキーに注目したんだ。
ひろし君が真っ先にクッキーの傍に駆け寄る。
僕も慌てて近寄った。
「見て、二人とも」
そう言ってクッキーが指さしたのは、校庭だった。
見ると、校庭には一足先に下校を始めたらしい下級生の姿があるだけだった。
「なんだよ?ビックリするなあ」
「下級生の子たちがどうかしたの?」
「別にいつもとおんなじじゃない」
他のみんなも近寄って口々に言う。
クッキーは校庭を見つめたまま、
「きれい〜」
とうっとりした声を上げる。
皆の顔に「何が?」という表情が広がった。
僕も何が奇麗なのかわからなかった。
「クッキー、何が奇麗なんだい?」
ひろし君がクッキーに聞く。
すると、クッキーは僕らの方を向いて、にっこり笑った。
「ほら、あの子たちの傘の色。いっぱいあってきれいじゃない」
確かに、いろんな色の傘があった。
赤、青、緑、黄色、黒…。
「なんか、お花畑みたいで素敵よね!」
クッキーの声が弾む。
次々と昇降口の傍から開いていく傘は、クッキーが言う通り、花が次々と咲いて行くかのように見えた。
「そう言われれば、そうかも!」
マリアが明るい声を出した。
みんなも口々に、
「ほんと、綺麗。」
「ねえゆう、これ、イラストに描いたら面白そうよ」
「ナイス、アイディア!」
「へえ〜傘って上から見るとこんななんだな」
「あいつの傘の柄、仁の服の色に似てるぜ!」
「え?どこだよ!」
と言い出して盛り上がった。
「あ、見て!校門のところにも!」
と言って、きららが指をさす。
「わあ、あっちもいろんな柄があるわ」
「迎えにきたお母さんたちのかな」
校門の方に見える傘も、花柄、ストライプ、ボーダー…、傘って、こんなにバリエーションがあるんだな。
それを見ながら、みんなは傘についていろいろな話を始めた。
自分の傘は何色だ、とか、お母さんの傘は派手だ、傘をお猪口みたいにして遊んだ、とか…。
いつのまにか、クラス皆が傘談議で盛り上がっていたんだ。
「傘の花、か。なんかロマンチックよね」
とマリアが言う。
みんなのイライラがいつの間にかなくなって、マリアはほっとしてるみたいに見えた。
仁君も飛鳥君も勉君もきららも…みんなの顔が明るくなっていた。
僕は校庭を見ているうち、おのぼり山の花畑と梢ちゃんの笑顔を思い出していた。
梅雨なんていいとこ無いよ、って思っていたけど、結構楽しめるのかもしれないな。
傘の花は、差し手の動きに合わせてぴょこぴょこ跳ねている。
それは、まるでダンスをしてるみたいにも見えたんだ。
<< END >>
第9話と10話の間くらいの時期を想定した話。
梅雨時のひとコマです。
全員を登場させようと試みてみましたが、無理やり感が否めないですね…。