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a cold

何だか少し体が重い。そして頭がぼおっとする。
ベッドから身を起こし,ひろしは空気の冷たさに身を震わせた。
上着を引っ掛けて窓のカーテンを開けると,外は雪が降っている。
「雪だあ」
ひろしは思わずそう声をあげて,室内だというのに自分の息が白く染まることに気づいた。
両手をぎゅっと握りしめて,肩を縮めながら階下へ降りると,いつものように台所は暖かい空気が漂い朝食の匂いがしていた。
「母さん,おはよう」
母親にそう告げてから,洗面所へ向かう。
蛇口からほとばしる水が余りにも冷たくて,温水の蛇口をひねった。
顔を洗い,タオルでごしごしと拭き終わると,鏡に映る自分の顔を見る。
何だか少し,顔が赤い気がするのは気のせいなのかな。
そう思うと,喉もひりひりと痛むような気がしてきて,ひろしは頭をぶるぶると振った。
(病は気からっていうし。今朝は寒いからそう思えるだけだよな)
両頬を軽くぱしっと叩いて気合いを入れて,着替えをしに部屋へ戻った。
室内は相変わらず寒く,手早く着替えてランドセルを持ち,ダイニングへ向かう。
「ひろし,雪が降っているから暖かくしていくのよ」
母親がそう言って,ひろしに味噌汁をよそった。
「はーい」


外へ出ると,いつもの朝より周りが明るく見えて,ひろしはうきうきした気持ちになった。
同じように学校へ向かう子供たちの頬っぺたは赤く染まり,どの顔もにこにこと笑っている。
陽昇川の河川敷は一面に雪化粧をして,まるで真っ白の絨毯のように見えた。


「おはよう,ひろしくん!」
「おはよう」
インターフォンを押してすぐに,クッキーが玄関から顔を出す。
早く外に出たくてうずうずしていたに違いない。
クッキーはいつもよりも分厚いマフラーを首にぐるぐると巻いて,余計に小柄に見える。
それが可愛くて,思わずひろしは笑ってしまう。
「なあに?どうかしたの?」
クッキーはきょとんとしている。
「ううん,何でもない。さ,行こうか」
「うん!じゃあ,行ってきまーす」


「このままもっと積もったら,皆で雪だるまが作れるかなあ」
歩道の脇に積もった雪をわざと踏みしめながら,クッキーが弾んだ声を出す。
「そうだね,たくさん積もるといいね」
あ,でも男子はきっと雪合戦するんじゃないの?そう言いながらクッキーはひろしの顔を覗き込む。
「あれ?」
「ん?どうしたの?」
「ひろしくん,なんだか元気なさそう」
「…そうかな」
「うん。熱でもあるの?」
「ううん,そんなことないよ。大丈夫」
「ほんとう?」
「うん,大丈夫大丈夫」

多少体にだるさは感じるが,辛いというほどでもない。
それくらいのことで学校を休んでいられない。
何といっても,ひろしは地球防衛組の一員なのだから。
ジャーク帝国との戦いも激化している中で,誰かが欠けた状態で戦うことはできない。
それに,こうして折角雪が積もったのだし,こんな日に家に閉じこもるなんてもったいない。


教室に着くと,いつもならチャイムギリギリに駆け込んでくる仁とあきら,ヨッパーが既に居て,これから雪合戦をやるぞとひろしを誘った。
ほおらね,という顔でクッキーがひろしを見上げる。
ひろしはランドセルを机に置いて,仁達の後を追った。


雪合戦は熾烈な戦いとなった。
大介が作った硬くて大きな雪玉は当たると結構痛かったし,あきらが考案したマフラーによる雪玉発射機の威力もなかなかだった。
ヨッパーは普段の面倒くさそうな動きとは対照的に,雪玉を避けるのだけは妙に上手だった。
そして,何より果敢に敵陣へ突っ込んでくる仁の奇襲が凄かった。
自陣の守りをひでのり(彼は黙々と雪玉を作る職人と化した)と勉(しかしほとんど役に立たなかった)に任せて,ひろしは飛鳥と吼児とともに応戦したのだった。



以前,教室のストーブの上でヨッパーが餅を焼こうとして焦がし,それを篠田に怒られて以来,
ストーブの周りには安全のため柵が設けられている。
その柵には,雪で湿った皆の手袋やらマフラーやらが引っ掛けられている。
ストーブの周りを仁達と囲みながら,ひろしは冷たくなった両手をかざす。
遊んでいた時は無我夢中で気付かなかったが,手足だけでなく上着も靴も濡れて湿っており,暖かな教室へ入ってくると,途端に寒気がした。

「ちょっとー,男子だけでストーブを独占しないでよね」
きららが仁とあきらの間に割り込む。
「おいおい,狭くなるじゃねえかよ〜」
「俺らさっきまで雪を触ってて冷えてるんだからさ〜」
あきらと仁がぶうぶうと文句を言うが,きららは一向に気にしない。
「雪合戦してたのはあんたたちの勝手でしょ。このストーブは男女平等に使うべきものじゃないの」
「そうよ,そうよ」
「あたしも,当たりたいな…」
きららに同調して,ポテトとゆうがストーブの周りに寄ってくる。
既に柵の周りは満員だ。
仕方がないので,ひろしはポテトに場所を譲って席へ戻る。

しばらくの間ストーブで暖まったものの,依然として寒気は治まらなかった。
(カイロか何か,持ってくるべきだったかな…)
はあ,と両手に息を吹きかけて指先を温めてみる。
「ひろしくん,顔色良くないけど,大丈夫?」
隣の席に座っていたラブが声をかけてきた。
「あ,うん。大丈夫だよ。ちょっと雪合戦に夢中になりすぎたかな」
そう言って,ひろしは頭を掻いた。
なんとなく,頭がぼおっとして,熱が上がったように感じたが,ひろしは気にしないことに決めた。



授業は滞りなく進んだ。
給食には豚汁が出て,体が温まると皆喜んだ。
午後になっても雪は降り続いている。この調子で降り続けば,放課後はまた雪遊びをすることになるかもしれない。
(だとしたら,僕は遠慮させてもらおうかな…)
寒気は治まらないし,熱もますます上がってきたような気がする。
(あとは学級会だけだし,終わったら早く帰って休もう)


チャイムが鳴って,5限目が始まった。
5,6時間目を通して行われる学級会の議題は,3月に行われる「卒業生を送る会」への出し物についてだ。
ひろしとマリアは,予め篠田から渡されたプリントをもとに司会を進めることになっている。
マリアが黒板へ議題を書き込んだのを見て,ひろしはプリントを読み上げた。
「…という予定になっています。このクラスでも何か一つ,出し物をすることになりますが,何をしたらよいか,アイデアを出してください。」
「俺は歌謡ショーがいいぜ!こないだ父ちゃんから新しい演歌を教わったんだ」
えー,何よそれー。非現実的だよ。バカ仁! などと,瞬く間に周囲から文句が上がる。
「うるせえー!アイデア出してるだけなんだからいいじゃんかよ!」
仁はむきになって立ち上がり,大声を張り上げる。
それに対する皆の反論が上がって,教室内は騒がしくなった。
「みんな,静かにして!静かにしてください!」
ひろしはそれを大声で諌めながら,
「…それから仁君,発言は挙手してからしてください」と言った。
いつものことなのだが,ひろしは妙に疲れを感じた。
「あんた,何べん言っても守らないんだから,全く」
マリアがぶつぶつ言いながら,それでも黒板に『歌謡ショー(?)』と書き込んだ。

「ハイ」
吼児が手を挙げる。
「吼児君,どうぞ」
「僕は何か小さな劇をやれたらなあって思うんだけど。学芸会の時の劇も好評だったし…」
マリアは黒板に『劇』と書き込む。
「ハイハイ!俺は皆でロックバンド組んでコンサートしたいぜ!」
と,あきら。
「あんたまたそんなこと言って。現実的に考えなさいよ!」
あきらに向ってきららが文句を言う。
「何だよ!現実的じゃねえって言うのかよ!それならお前はどうなんだ!」
「あたしはねえ,学校の先生方全員にインタビューして,卒業特集番組を作るっていうアイデアがあるんだけど。」
「それ中々面白そうね」
「少なくともあきら君のよりは,現実的よね」
「何だと?!」
きららの発言に賛成するれいことポテトにあきらが突っかかった。
「あーまた始まった…」
黒板に『ロックコンサート』と『卒業特集番組』と書き込みながら,マリアがやれやれと首を振る。
「ちょっとそこ!静かにしてください!発言は挙手してからって…」
ひろしは大声でそう言いながら,一瞬あれ?と思った。
自分の声が急に遠のいて…目の前がぼんやりしてぐるぐると回り出す…


ひろしは教卓に倒れこんでしまった。
「ちょ,ちょっとひろしくん,大丈夫?!」
「高森!」
マリアと篠田が慌てて駆け寄る。
皆言い争いをやめてびっくりしたようにひろしの方を見た。
ひろしは真っ赤な顔をして息が荒い。
篠田がひろしを抱き起こした。
「おい,高森,しっかりしろ!…!熱いな…,こりゃ大変だ」
「ど,どうしたんですか,先生?」
「ひろしくーん…」
皆教卓の方へ駆け寄って心配そうにひろしを見つめた。クッキーは泣きそうになっている。
篠田はそっとひろしの体を持ち上げると,生徒たちを見回して,
「先生は高森を保健室へ連れて行くから,みんな少し待っていてくれ」
と言い,教室を出て行った。


篠田が出て行ったあとの教室は騒然とした。
「大丈夫かな,ひろし君」
「真っ赤な顔してたぜ…」
「あいつ,辛そうになんて見えなかったのに」
「ひろしはしんどそうなところをなかなか見せないからなあ」
「そういえば,朝からちょっと元気がなかったみたいだったわ」
「うんうん。授業中もぼーっとしてたみたいだしね」
「どうしよう,マリアちゃん,ひろしくんが死んじゃう〜」
「クッキー,落ち着いて。きっと大丈夫だから」
「仁,お前がいつもみたいに騒ぐからだよ」
「何言ってんだよ,それだったら,あきらときららもじゃねえかよ!」
「あんたたちと一緒にしないでよ!」
「ええ〜い,みんな静かにしてっ!!!」
ざわざわする教室内に,マリアの怒号が響き渡った。
「ひろし君のことは心配だけど,とりあえず先生たちに任せましょう。学級会を続けます。いいわね?」
マリアの強権発動によりその場は収束され,学級会が進められた。


一方,保健室にて。
ベッドに寝かされたひろしの熱を測り,姫木はその美しい眉を顰めた。
「…38.7度。高いですわね。とりあえず安静にさせて,このまま熱が下がらないようなら病院へ連れて行きますわ」
「そうですか…。担任のくせに,高森の異変に気づいていなかった。恥ずかしいです」
「どうやら,無理していたみたいですわね。高森君は辛くても我慢してしまうところがあるから…。」
姫木はそう言いながら,タオルを湿らせてひろしの額に載せた。
濡れタオルが気持ち良いのか,ひろしは少し楽になったようだ。
その表情を見ながら,篠田は姫木に頭を下げると,
「よろしくお願いします。授業が終わったらまた来ますので」
「わかりました。今日は6時間目まであるのでしたっけ?」
「はあ。そうです。もし高森の様子が変わらないようでしたら,家へ連絡します」
「そうですわね。彼のことは私がちゃんと診ていますのでご心配なさらずに,授業へ戻ってくださいね」
「はい,よろしくお願いします。」
篠田は何度も頭を下げながら,心配そうにひろしの方を見つつ,保健室を出て行った。



「う…ううん…」
「ひろし君,大丈夫?」
「あ…あれ…僕…?」
「ここは保健室よ。…熱が上がってるのに無理していたみたいね。」
姫木は水差しと薬を持って来て,
「とりあえず,熱さましを飲んでみましょうか。起き上がれる?」と聞いた。
「は,はい…」
ひろしが慌てて身を起こそうとするのを,「急がなくてもいいのよ,ゆっくりで」と言いながら姫木が手伝う。
水を口に含んで,薬を飲む。
「熱はね,汗をいっぱいかいて下げるといいのよ。だから,つらくてもお水をいっぱい飲んでおきましょう」
姫木がそう言い,コップに水を継ぎ足した。
ひろしがその水を飲むのを見ながら,
「とりあえず,6時間目が終わるまでここで休みなさい。熱が下がらないようだったら,お家に連絡して一緒に病院へ行きましょう」
と姫木が言う。
「はい…。すみません,ご迷…ええっと,ご心配をかけて」
ひろしがそう言うと,姫木は可笑しそうに笑って,
「あらひろし君たら,そんなこと言って。変な遠慮はしなくていいの。さあ,少し眠りなさい」
と優しく言った。
その表情はどこか母親に似ているような気がして,ひろしは安心した。


薬を飲んだためだろう,ひろしはそれからすぐ眠りに落ちたが,熱のせいか,ぐっすり寝付くことはできなかった。
ただかすかな意識の中で,ぼんやりとチャイムの音や,姫木が何か作業をしている音,篠田のものらしき声を聞いていた。


またチャイムが鳴って,姫木が仕切りのカーテンを少し開けた。
「ひろし君,ちょっと熱を測らせてね」
「…あ,…はい…」
しばらくして,ピピッと電子音がして,姫木が体温計を取り上げた。
「…少し下がってきたみたいね。お家の方に迎えに来て貰いましょうか」
「あ…先生,僕一人で帰りますから」
ひろしがそう言うと,姫木は眉をひゅうっと持ち上げる。
「駄目よ。外はまだ雪が降っているもの。また熱が上がってしまうわ。」
「でも…」
そう言いながら,ひろしは母親のことを思い浮かべる。彼女は今頃店番の真っ最中だ。
父親は,おそらく顧客の家を回って暖房器具のチェックや修理をしているに違いない。
(僕が無茶したせいで,父さんや母さん,先生たちに面倒かけちゃって…恥ずかしいなあ)
「保健教諭として,一人での下校は許可できません。もしご両親がお忙しかったら,先生が家まで送っていくから」
姫木はそう言うと,
「とりあえず,お家へ電話してくるわ。もうしばらく休んでいなさいね。」
と告げて,カーテンを引いた。


ガラガラと,戸を開け閉めする音がして,廊下で何か喋っているような声が聞こえている。
(あーあ。風邪なんて何にもいいことないや…。みんなに迷わ…心配かけちゃったし…)
ひろしはそう思いながら,目を閉じた。



また戸が開く音と,足音が聞こえる。
(先生,忘れものか何かかな)
そんなことをひろしがぼんやりと考えていると,再びカーテンが開けられた。
カーテンの隙間から顔を見せたのは,クッキーだった。
「ひろしく〜ん,だいじょうぶ?」
クッキーは小声でそう言いながら,ベッドの傍にあった椅子に腰かけた。
「ク…クッキー…」
ひろしが身を起こそうとするのを慌てて手で止めながら,クッキーは
「駄目だよ起きちゃ。姫木先生にね,ちょっとだけならお見舞いしてもいいって許してもらったの。」
「…そうなんだ…」
「みんなすっごく心配してるよ。でも皆で行くと煩くなるから,代表であたしが来たの。」
「うん…。ごめんよ,みんなに心配かけて…」
「それはいいの。どお?ちょっとは楽になった?」
「うん。もう随分良くなったよ」
「本当…?」
「うん,本当だよ。熱もほとんど下がったし。」
ひろしは無理にそう言って,笑って見せた。


「そうなの? ん〜どれどれ〜?」
クッキーはそう言うと,ひろしの額に掌を当てる。
ひんやりとしたその小さな手が心地よくて,ひろしは目を閉じた。
「熱い様な気がするけど…,あたしの手が冷たすぎるのかも」
そう言ってクッキーは手を離し,ひろしの額に自分のおでこをくっつけた。
ひろしが思わず目を開くと,目の前にクッキーの瞳があった。
慌ててぎゅっと目をつぶる。
顔が,手足が,体じゅうがかあ〜と熱くなる。
緊張して,指一本すら動かせないくらいだ。
「んん〜やっぱりだいぶ熱いみたい」
クッキーはようやく額を離し,そう呟いた。
「…」
「ひろしくん?」
「…う,うん…。そうかも…」
ちらりとクッキーを見上げると,彼女は何も気にしていないように見える。
ひろしは自分だけがドキドキしているようで恥ずかしかった。


また,ガラガラと戸を引く音がした。
姫木は,まっすぐひろしの方へやってきて,
「ひろし君,お母様が迎えに来て下さるって。雪が降ってるから,30分後くらいにお着きになるそうよ」
と言った。
「よかったねえ,ひろし君」
「うん…。先生,ありがとうございます」
姫木はまた可笑しそうな表情になると,
「ひろし君,こういう時は,もっと周りの人に甘えてもいいのよ。」
と言った。
その様子をクッキーは少し不思議そうに見つめていた。
「さ,クッキー,もうそろそろお見舞い時間はおしまいよ」
「はあい。ひろし君,帰る時また来るからね。」
「え,いいよ,そんな…」
ひろしがそう言うと,クッキーは大げさに眉を吊り上げて,
「ひろし君は,もっと周りに甘えてもいいのよ」
と言う。
その台詞が,クッキーにミスマッチのように思えて,そしてそれが妙に可愛らしくて,ひろしと姫木はぷはっと笑った。



母親とともにタクシーで家に戻り,パジャマに着替えてベットに潜り込む。
「あんたって子は無理しすぎるんだから,本当に…」
母親はそう言いながら氷枕を作り,ひろしの額に濡れたタオルを載せた。
「ごめん,母さん…」
「容子ちゃんも心配してたんだから,早く治さないとね」
母親は茶化すようにそう言って掛布団をぽんぽんと優しく叩いた。
「後でおかゆを持ってくるからね。しばらく眠りなさい」
「はい…」
(早く元気にならなくちゃ。皆に心配かけてるんだし。)
ひろしは布団を口元まで引っ張り上げる。


お粥には卵が落としてあり,ひろしの好きな鰹節のかかった梅干しも添えられていた。
「これを全部食べて,薬も飲まなくちゃね」
母親はそう言って,器に盛り付ける。
湯気がもうもうと立ち上って,いい匂いがひろしの鼻をくすぐった。
母親はスプーンに粥を掬って,ふうふうと息を吹きかけてから,それをひろしの口元へ差し出す。
「ほら,口を開けて」
「か,母さん…,いいよ,自分でできるから」
「いいから,食べなさい」
スプーンを口に当てられ,しょうがなくひろしはそれを食べた。
卵の味が口の中に広がる。粥はとても美味しかった。
母親のまなざしが自分に向けられて,ひろしは凄く照れくさい気持ちになる。
「ほら,もう一口」
(もうすぐ6年生になるっていうのに…,赤ちゃんみたいで恥ずかしいや…)
ひろしは大人しく口を開けて粥を貰いながら,そう思う。
くすぐったい様な。ちょっと居心地が悪いような。
でも何だか嬉しい気もするな。
ひろしはちょっとそんなことを思った。


粥を食べ終え,薬を飲んで,氷枕とタオルを取り換えてもらって。
病気は早く治したい。
でも,病気になるって言うのも,…ちょっとだけ,悪くないかも…。
額に添えられた,母親の手。姫木の手。
ずれて来たタオルを直しながら,ひろしはその感触をぼんやりと思い出す。

それから…,クッキーがおでこをくっつけてくれたこと。
間近で見たクッキーの瞳を思い出して,思わずにやけたひろしは,また熱が上がっちゃったかも,と思った。
<< END >>
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病気になると,介抱してくれる人の優しさが身に沁みますね。
子供のころは病気になると親が優しくしてくれたり,好きな果物を食べられたり,学校を休めたりして,何だか悪くないかも,と思っていました。
大人になると自分自身で何とかしなくてはいけなくなるのですが…。

ひろしが頻りに「メイ○ク」を言わないよう,思わないようにしているところ,お気づきいただけましたか?
さらっとその単語を書いていて,気づいて慌てて直しました(笑)。陽昇学園には特にアークダーマが多いので。

冬の季節,インフルエンザや胃腸風邪などが流行りますので,皆さまもお気をつけて。