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スナップ

ひろしがクラス委員長会議を終えて、3組の教室を覗くと、仁やマリアたち地球防衛組のメンバーが集まってわいのわいのとやっている。
「お、ひろし!やっと来たか」
ひろしに気づいたあきらが手を振る。
「みんな、何やってるの?」
そう言いながらひろしが近づくと、マリアの机の上にはたくさんの写真が並べられていた。
周囲の机では、みんながその写真に思い思いのメッセージを書き込んでいる。
「ひろし君、会議御苦労さま」
ピンク色のペンを持ったまま、クッキーがひろしを見上げてにっこりと笑う。
クッキーの手元には、ひろしと彼女のスナップ写真や、小学校の頃の写真が置かれている。

「みんなで写真を持ち寄ってるの。せっかくだから寄せ書きみたいに皆に一言ずつ書いてもらおうと思ってね」
と、マリアがひろしに説明する。
「もうすぐ中学校も卒業でしょ。みんなばらばらになっちゃうから、記念になるでしょ」と、ラブも言う。
「描きあがったら、カラーコピーしてみんなに配る予定なんですよ」
と、ひでのり。
「へえ、いいね。」
ひろしが写真を何枚か手にとって見ていると、仁が色ペンの束を差し出す。
「おい、ひろしも書けよ。ほっとくと何書かれるかわかんねえぞ」
「そうそう、さっきから女子は俺ら男子の悪口ばっかり書いてるぜ」
とヨッパーも口をはさむ。
「ちょっと仁、ヨッパー!どういうことよ?」
すかさずきららが反論する。
「まあまあ、落ち着いて」
と、大介。
「じゃあ、僕も書かせてもらおうかな」
そう言って、ひろしはペンの束から濃い青紫色のペンを選ぶ。


ほとんどの写真には、すでに誰かしらの書き込みがあった。
筆跡は勿論、使うペンの色で誰が書いたのかわかってしまう。
仁は、トレードマークでもある、赤色。
マリアは、明るいオレンジ色。
ヨッパーは、黄緑色。
ときえは、水色。
飛鳥は、落ち着いた紺色。
勉は、黒。
吼児は、緑色。
きららなんかは、ラメ入りのペンを使っている。
(みんな、らしいな)
ひろしはそっと微笑む。


写真は本当に色々あった。
地球防衛組として忙しい日々を送っていた5年のころ。
校庭にライジンオーやバクリュウオーを出して、皆で掃除した時。
指令室で撮った記念写真。
野球対決の時。ドッジボールの大会の時。運動会のスナップ。おのぼり山への遠足。スケートへ行ったとき。臨海学校…。
5年生の時は、何かのイベント毎に出動していたような気がする。
6年生の、修学旅行の時。夏休みに皆で遊んだ時の写真。体育大会の時。卒業式。
…イベント事だけでも、数え切れないほどある。
一枚一枚から、その時にあった出来事や思ったことが蘇ってくる。

日常のスナップ写真もあった。
教室で、ひろしと飛鳥が話している写真。
深い赤色のペンで、『何を話してるのかな?』と書きこんでいるのは…、ゆうだ。
その下に矢印があって、『男同士の内緒だよ』と綺麗な字で書いているのは飛鳥。
『やだー気になる!ケチ!』と書き足しているのはポテトだ。


「ひろし君、じっとみてるだけじゃだめじゃない、何か書きこまなくちゃ」
とれいこが言う。
「う、うん…」
(何を書こうかな…)
ちょっと迷いながら、それでもひろしはペンを走らせる。

クッキーが持って来たのだろう、ひろしとクッキーが幼稚園の頃の古いスナップまであった。
(クッキー、泣いてる)
ひろしはくすりと笑う。
仁が赤いマジックで大きく「泣き虫〜」と書きこんでいた。
クッキーがそれに「仁くんヒドーイ!」と返している。
(メッセージと言うより、会話になってるや)
ひろしもそれに少し言葉を付け加える。


こうして写真を見ていると、本当に色々なことがあったと思う。
(なんか、ちょっと切なくなるな…)
ひとしきりメッセージを書いて、ひろしは顔を上げて皆を見渡す。
皆、わいわいと楽しそうに書いているが、恐らくその心中はひろしと同じに違いない。
仁とマリアは、ちょこちょこと軽口の応酬をしながらも楽しそうだ。
(小学校を卒業する時、仁は卒業なんて嫌だ!って言ってたっけ。)
そのころを思うと、今の仁はやっぱり大人になった。
(…いや、仁だけじゃないな)
引っ込み思案だったゆう、押しに弱かった吼児、のんびりおっとりしていたひでのり、頼りなさげな表情だった大介。
素直になれなかったヨッパー。すぐに諦めていた美紀…。
そして、泣いてばかりいたクッキー。
(…本当に、みんなともお別れなんだ…)


「はい、ひろし君、これにも書いてね」
と、美紀が差し出した写真は大判で、それは小学校の卒業式の時に撮ったものだった。
先生方に無理を言って、校庭にゴットライジンオーを出して、皆で登って撮った奴だ。
みんな晴れ晴れとした表情をしている。
そして、ひろし自身もしっかりと前を向いて立っていた。
(…そうだよな。)
ひろしはかつての自分の表情を見て納得する。
(卒業は寂しいけど、でも、新たなスタートなんだよな)
ひろしは、小さく頷くと、その写真にメッセージを書き込んだ。


帰り道。皆と曲がり角で別れ、ひろしとクッキーは二人になる。
「メッセージ書きこむの、楽しかったね〜」
そう言ってクッキーが満足そうに笑う。
「そうだね。いろんな写真があって懐かしくなったよ」
「…中学校を卒業すると、本当にみんなばらばらになっちゃうんだよね…。さみしいな」
「…うん」
「でもあたしたち地球防衛組は、永遠に仲間だよね?」
そう言ってクッキーがひろしを見上げる。
「勿論。離れていたって、ずっと仲間だよ」
そう言ってひろしはクッキーの手を取って握り締める。
「進路がばらばらになったって、別の場所に居たって、僕らはずっと仲間なんだ。」
「…うん。お別れじゃ、ないんだものね。」
「そうだよ。だから、前を向いて頑張っていかなきゃな」
ひろしがそう言うと、クッキーはひろしの手をぎゅっと握り返してくる。

街路樹の枝先には、蕾が付き始めている。
この蕾が膨らんで、花開く頃、卒業式がやってくる。

ひろしが描きこんだメッセージのうちの一つにはこうある。
「たくさんの思い出をありがとう。そして、これからもよろしく。」

<< END >>
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(以前)絵の方でスナップ写真を並べたものを書いてみたのですが、そこからこの話を思いつきました。
ひろしの最後のメッセージはあまりに平凡すぎて、オチとして締まらない感じですが、でも当たり前の言葉にこそ思いが詰まっている気がして、こうしました。

*上記の絵はログ整理のため削除しました。