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落ち葉

待ち合わせは,駅前に午後1時。
僕の歩みに合わせて、歩道に散らばった落ち葉がかさかさと音を立てる。
それが妙に耳について、僕はついつい早足になっている自分に気づく。


僕は手紙を書くのが好きだ。ペンフレンドの相手だって、何人もいる。
ただ、彼女はなんだか、他の文通相手とは違う気がするんだ。

毎日の出来事で、ふっと思ったこと。感じたこと。
勿論、面白い出来事があったら真っ先に書くんだけど、彼女は特別な出来事よりも僕の些細な日常に興味があるらしい。
聞き上手ってあるけれど、手紙の場合はどう言うんだろう?
兎に角、彼女の手紙は僕に対してとっても上手な相槌を打ってくれる。
だから、僕の文章はいつも長くなってしまう。



前に会ったのが夏の始めごろだったから、彼女に会うのは4ヶ月振りになる。
少し前に僕は14歳になった。今日はそのお祝いをしてくれるんだって、彼女が言いだしたんだ。

歩道を逸れて、僕はロータリーの方へ向かった。
駅舎の出入り口に、彼女の姿があった。
一瞬、どきっとした。
彼女が急に大人になったような、そんな気がしたから。



「久し振り。元気だった?」

僕の姿を認めて、彼女が微笑む。
陽の光を受けると赤みを帯びて見える、明るい髪の色。
どこか悪戯っぽそうな笑顔。
僕のことを見透かしてしまいそうな、真っ直ぐな眼差し。
それは前に会った時と、変わっていないのに。


僕らはそれから、しばらく散歩した。
今度は二人で並んで、落ち葉が舞う歩道を歩く。
途中の自販機であったかいお茶を買って飲んだりもした。


いつもあんなにたくさん、色んなことを手紙に書いているのに、僕らのおしゃべりは途切れることがない。
彼女はやっぱり聞き上手だ。
ええ。 それで? わあ。 そうなの。 へえ。 まあ、すてき。
彼女が発する言葉の一つ一つが、きらきらと光の粒子を帯びて輝く。
僕はすっかり楽しい気持ちになる。


話しても話しても、伝えきれない気がするのはなんでだろう。
良く笑う横顔に見とれてしまうのはなんでだろう。



あっという間に、時間が経った。
まるで今日だけ、太陽が早回しで移動したみたいに。


別れ際に、彼女が僕へくれた誕生日プレゼントは、星の砂だった。
彼女のおじさんが、南の島のお土産としてくれたものだそうだ。
ガラスの小瓶を揺らすと、それはさらさらと音を立てる。
「綺麗でしょ。南の島には、星の砂がたくさんあるんだって」
僕は一面の星の砂浜を思い浮かべる。



彼女が乗るバスが停留所へ到着した。
「それじゃあね。元気でね」
彼女はそう微笑んで,タラップに足を掛ける。
「あ、待って」
髪の毛に落ち葉が一枚ついていた。
僕がそっとそれを取ると、ありがとう、と彼女はまた微笑む。
それが妙に大人びて見えて、僕は言葉を失ってしまう。
「吼児くん?」
不思議そうに彼女が言う。

「手紙、書くから。」
ようやく僕がそう言うと、彼女はにっこり笑って、うん。待ってるね。と言う。

バスのドアがぷしゅうと音を立てて閉まった。
彼女を乗せて、バスは走り去っていく。


もっと一緒に居たかったな。
バスを見送りながら、僕は心の中で呟いた。


バスが見えなくなって、僕は家路につく。
どうしてなんだろう。
手に残った落ち葉が捨てられない。


手紙を書くよ。
もっともっと。

…でも本当に伝えたいことができたら、僕は会いに行くから。


<< END >>
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吼児と梢のワンシーンのつもりです。
好きとか、恋とかを意識する前の、微妙な気持ちを表現したかったのですが。
表現したかったのですが…。