ウエダは美紀に向き直ると,面倒臭そうにポケットに手を突っ込んだ。
「…それで,何の話だよ」
「さっきの喧嘩のこと」
「…」
「何であんなことしたの」
「…」
「わざと喧嘩を吹っ掛けたんでしょ」
「吹っ掛けてねえよ」
「うそだ」
美紀の低い声に,ウエダは口を噤んだ。
「最近そんなことばっかりじゃない。何が気に入らないの?」
「…おれは思ったことを言ってるだけだ。だいたいお前のクラスのちっこい奴が…」
「あたしの友達を馬鹿にしないで!」
「…」
「なんで人をけなすようなこと言うの?前はそんなこと,絶対言わなかったじゃない」
「…」
「前はそんなんじゃなかった。たーくんはもっと優しかった。人のこと,絶対馬鹿になんてしなかった」
「…やめろ」
「たーくん」
「オレのこと,たーくんって呼ぶな!」
大きな声に,美紀はびくりと体を揺らす。
「6年にもなってガキくせえ奴だな。…いつまでも幼馴染ごっこなんてしてられるかよ」
「…ごっこ…?」
「金輪際,俺のことたーくんなんて呼ぶな。いつまでも昔みたいに馴れ馴れしくすんな!
…お前なんか知らねえ。関係ねえ」
「…それ,本気で言ってるの…?」
「ああ本気だともよ。そもそもオレはお前も,お前のクラスも気に入らねえんだ!
何が地球防衛組だよ。調子に乗りやがって」
「……」
「話はそれだけか?じゃあオレは帰るぜ」
「…わかったわ」
「…?」
美紀はき,とウエダをにらむ。
「…ウエダくん。これからはあたしたちは幼馴染じゃない。だからはっきり言わせてもらうわ」
「…なんだよ」
「ウエダくんのイライラを,あたしのクラスのみんなにぶつけないで。
もし今度あたしの友達を馬鹿にしたら,許さないから。ぜったいぜったい,許さないから」
「…それだけか?」
「ええ」
美紀はきっとウエダを見据えてそう言った。
ウエダは再びち,と舌打ちした後,何も言わずに走り去った。
ぴゅう,と風が通り抜けた。
日射しも弱まり,若干冷たい。
美紀はしばらくそのまま立ちすくんでいた。
「美紀ちゃーん」
クッキーが駆け寄ってくる。
「お話,できた?」
顔を覗きこまれて,美紀はふ,と俯いた。
小刻みに肩が揺れる。
「…うん」
絞り出すような声を出した美紀の頬に,暖かいものが流れ落ちる。
「美紀ちゃん…」
クッキーはそっと袖をつかんだ。
美紀は声を殺して泣いていた。
「…ごめん,泣いちゃって」
「ううん」
えへ,と苦笑しながら,美紀はごめんね,を繰り返す。
「我慢しちゃ駄目だよ。余計辛くなるよ」
袖をぎゅ,と掴んだまま,クッキーは小さな声で言った。
「あたし,そばにいるからね」
そう言われて,美紀はたまらず嗚咽を漏らす。
「あたし,幼馴染じゃ…なくなっちゃった…」
「え…」
「もう…たーくんって…呼べなく…なっちゃった…」
嗚咽に混じりながら,美紀は声を絞り出す。
「美紀ちゃん…」
「辛いよ。いつまでも仲良くいられないのは…つらいよお…」
じわり,とクッキーの眼に涙が溜まる。
「美紀…ちゃん…」
何と声をかけていいのか,ちっとも判らなかった。
一緒に泣くことしか,クッキーにはできなかった。
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