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そらのしたで >>きみのかたち4

「おーい,仁」
昼休み。
校庭へ向かおうと,昇降口にやって来た仁は谷口に声をかけられた。
「よう谷口。どした?」
振り返ると,谷口がちょっと,と手を振る。
「なあ,ちょっといいか」
「なんだよ」
「応援団のことでな…」
そう言われると耳を貸さざるを得ない。
なんたって,仁は3組の応援団長なのだから。


仁は上履きを靴箱にしまうと,谷口に向き直る。
「お前らのチームさ,なんか面白いこと考えてるって聞いたぜ」
ふふん,と得意げになった仁が「まあね」と返すと,じらされたのか谷口が早口で喋り出す。
「応援グッズで,バッヂを作ってるんだって?うちの下級生の間で噂になってる。」
「へっへ。そうかあ」
そう聞かされて嬉しくならないわけがない。
「そんでさ」
谷口はそこで言葉を切ると,頭をポリポリと掻いた。
「そんで,なんだよ」
仁が先を促す。
「そんで…ものは相談なんだけどさ…そのバッヂのアイデア,俺らにも使わせてくれねえかな」
仁は目を丸くする。
谷口は言いにくそうに,
「俺んとこの下級生達が,お前らのとこをすっげえ羨ましがっちゃってさ…。
自分達も欲しいって言いだして」
「ほえー」
あんぐりと口を開けたままの仁をすまなさそうに見遣って,谷口はぱん,と顔の前で両手を合わせる。
「無理なお願いだってことはわかってる。お前らのチームのことなんだし。
でもさ,良かったら考えてみてくれねえかな。
お前らが駄目だって言うんなら,下級生達も納得するかもしれないし。」
「うーん」

「僕はいいと思うけど…」
仁の背後から,吼児が控えめな声を出す。
「でもま,とりあえず話し合ってみないとな」
と,飛鳥が冷静に言う。
それを聞いて,谷口は顔を上げて,「助かるぜ」と,ほっとした声を上げた。
飛鳥の意見に従って,仁は会議で話し合うことを約束した。



おなじころ,6年1組の教室の前に,ふたりの小さな影が並んだ。
小さな体をなおも縮こませながらも,男の子がひとり,戸口に手をかける。
引こうとした途端,戸ががらがらと開いた。

「わっ」「えっ」
内側から出てきた人物は,突然目の前に現れた下級生に面食らう。
どん,とぶつかり,男の子は尻もちをついた。

「洋一くん!」
隣に立っていたもうひとりの女の子が声を上げた。
「わ,悪ぃ」
ウエダはあわてて洋一に声をかける。
「まさか居るなんて思ってなくてさ,ごめんな,大丈夫か?」
洋一は涙目になりながらも,うん,と声に出さずに答えた。
「どこか痛むか?保健室連れてこうか」
尻をはたきながら洋一が立ち上がると,ウエダは腰をかがめて顔を見る。
「ううん,大丈夫。こっちこそごめんなさい」
「ごめんなさい」
洋一のあとに,あやも言葉をつづけた。
「悪いのは俺だよ。ごめんな。…それで,お前ら何の用だ?」
低いが優しい調子の声に,洋一はようやく緊張が解けたように喋り出す。

「あの,ぼくたち2年1組からきました。おうえん団長にお願いがあってきたんです」
「そうか。ちょっと待ってな」
ウエダはそう言うと振り返って「おーいヨコヤマー」と声を上げる。
「なに?どうしたの」
教室の奥からヨコヤマがやってくると,
「このふたりがお前に用があるんだとさ」
と告げて,ふたりに「じゃあな」と声をかける。
そのまま廊下を歩いて行く後姿に向って,ふたりは「おにーちゃん,ありがとー」と揃って呼びかけた。
ウエダは軽く手を振ってそのまま歩き去った。


「それで,僕にどんな用事があるの?」
ヨコヤマは教室の中に2人を招き入れて椅子に座らせ,訊ねた。
「あの,お願いがあって来たんです」
「お願い?」
「ぼくらのクラスも,おうえんバッヂを付けたいんです」
「応援バッヂ?」
「ほら,3組が作ってるって言う,防衛組のメダルバッヂよ。そうでしょ?」
ヨコヤマの隣に居た女子応援団長が言うと,洋一とあやはこくんと頷いた。
「あたしたちも,防衛組バッヂを付けたいんです。うちのクラスのみんなが,そうおもってます」
あやがヨコヤマに向ってそう言った。



2人の下級生を見送って,ヨコヤマは女子応援団長の方を向いた。
「…どう思う?」
「3年生に続いて2年生も…。この調子だと他の学年も同じ希望を持ってきそうね」
「だよなあ…」
「あたしは,3組に頼んでみてもいいんじゃないかなって思う」
「…」
「実はちょっとね,あたしも羨ましかったんだもの」
そう言うと,女子応援団長は窓をからからと開けた。
運動場の方から,楽しげな声が聞こえてくる。
「ヨコヤマくんは,どう思う?」
「僕は…」
ヨコヤマは運動場を見降ろした。仁たちが下級生に混じってサッカーをしている。
「クラスのみんなが,どう思うか,だよな」
そうヨコヤマは呟いた。
「クラスのみんな,っていうより,一人の意見だけだとおもうけどね」
女子応援団長がぼそりと言うと,ヨコヤマははあ,と溜息をついた。


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