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Musical Box side-C

ベッドの上に並べたプレゼントを広げて見ているあたしは,さっきからにやにや笑いが止まらない。

小さなビーズがびっしりと並んだヘアピンは,マリアちゃんから貰ったもの。
小瓶に詰まった匂い玉はお花の香り。これは,れいこちゃんから。
きららちゃんはラメがきらきら光るシールをくれた。
ゆうちゃんとポテトからは手作りのクッキー。
ラブちゃんはちょっと大人っぽい(ドイツのメーカー製らしい)ボールペンをプレゼントしてくれた。
あたしの似顔絵を描いてくれたのは美紀ちゃん。
お花模様がプリントされた手鏡はときえちゃんから。
飛鳥君は最近気に入っているという推理小説の文庫本をくれた。
吼児君はみんなで一緒に撮った写真を贈ってくれた。


みんなからのプレゼントを手下げ袋に入れて持ち帰ったとき,お母さんはあら羨ましいわぁって言ってくれた。
あたしは鼻高々というか,嬉しくてお母さんにこのプレゼントの数々を見せびらかしちゃった。



今日はあたしの誕生日。
もうすぐ卒業式で,最近は毎日バタバタと忙しい。
卒業式の練習とかね。
だから3月生まれのあたしとひでのり君は明日まとめて誕生日のお祝いをしてもらうことになっている。
(あたしのクラスは,誰かの誕生日にはハッピーバースデイを歌うことになっているのだ)


でも,今日はあたしの生まれた日。
12歳になるこの日は,あたしの大事な日だ。


朝からみんながおめでとうって口々に言ってくれて,あたしは今日一日特別扱いをして貰えた。
あの仁君やあきら君たちも,ようやく12歳になったのかよ〜ってからかってきたけど,あれはきっと照れ隠しよね。
みんながあたしの誕生日を祝ってくれて,あたしはとっても幸せな気持ちになった。
プレゼントを貰えることよりも,みんながお祝いの気持ちを持ってくれることの方が,ずっと嬉しい。



コンコンとドアがノックされて,お母さんが顔を出した。
「まだ起きてるの?」
「うん。…なんか,寝ちゃうのが勿体なくって」
お母さんはベッドの上の品々を眺めて,ふふっと笑った。
「本当にたくさんプレゼントをもらったのねえ。」
あらためてそう言われて,あたしはまたえへへと笑ってしまう。

「容子はいいお友達がたくさんいるのね。」
「うん!」
「お友達は大事な宝物よ。容子もみんなにとっていいお友達でいられるようにならなきゃね」
「もちろんよ!…これでもあたしなりに,がんばってるんだもん」
「あらそうなの。じゃあ,12歳の容子はもっとしっかりした女の子になるのね。期待してるわよ」
「まかせといて!」

あたしはどんと胸を叩く。お母さんはそんなあたしを見てにっこり笑うと,
「それじゃ,母さんもう寝るわ。おやすみなさい」
と言ってドアを閉めた。
「おやすみなさーい」
手を振ってお母さんを見送ると,あたしはプレゼントを机の上に運んだ。



みんなからのプレゼント,使うのが勿体ない気がしちゃう。とりあえず,綺麗に並べておこうかな。
飛鳥君の本は,大事に本棚に並べた。
美紀ちゃんの絵は,今度大きめの額縁を買ってきて飾ろう。
吼児君から貰った写真は,ちゃんとアルバムに入れなくちゃ。



防衛組のみんなは,あたしの大事な大事な友達だ。

中学に入ったら,クラスも離れて,みんなとはばらばらになってしまうだろう。
だからこそ,あたしたちは卒業までの残りの日々を大切に,思いっきり楽しんでいる。
それもあと数日。
もうすぐ卒業すると思うと,すごくさみしい気持ちにもなるけれど,でもあたしたちはずっと防衛組でありつづける。


今までは,ずっとみんなに助けてもらってばっかりだったけど,これからは少しずつでもいいから,自分で頑張って行こうと思う。
これが,12歳のあたしの抱負。



みんなからのプレゼントを仕舞い終って,あたしはランドセルのふたを開ける。
なぜか,急にドキドキしてきた。
教科書とノートの脇に,小さな小箱がひとつ入っている。
これは,ひろしくんからのプレゼント。



小箱はあたしの机の引出しに入っていた。
きっと早朝登校したひろしくんが入れておいてくれたのだ。
ここのころあたしたちは一緒に登下校していない。
ひろしくんには学級委員の仕事のほかにも,色々と卒業式の準備があるみたい。
なんたって,ひろしくんは卒業生代表として答辞を読むことになっているのだから。



小箱は青い包装紙とピンクのリボンに包まれている。
リボンには小さなカードが挟まっていて,ひろしくんの名前が書かれていた。


あたしは小箱を見つけた時,みんなに見られないようにさっとランドセルの中にしまった。
なんでそんなことをしたのかわからない。
ただ,きららちゃんとか仁くんたちに冷やかされるのが恥ずかしい気がして。
ひろしくんからのプレゼントを誰かに見られるのが勿体ない様な気がして。


休み時間に,ひろしくんはクッキーおめでとうって言ってくれたけど,あたしはプレゼントのことを言い出せないままだった。
なんだか,急に照れくさい気持ちになってしまったから。
それに他のみんながあたしの席に集まって来ていたし。
だからありがとうとだけしか言えなかったんだ。


その後も,あたしにはひろしくんとゆっくり話をするタイミングがなかった。
その小箱の中身もなかなか確かめることができずじまいだった。


お母さんにプレゼントを自慢した時も,あたしはひろしくんからのプレゼントのことは秘密にした。
なんでだろう?
なんでだったんだろう?
…よく,わからない。




ベッドの上に座って,あたしはその小箱を開けた。
破らないように,包装紙をゆっくり慎重に剥がしていく。
小箱の中には,さらに小さな木箱が入っていた。
木箱の上には,かわいいくまさんの小さな人形が乗っかっている。
箱の脇に小さな取っ手がついている。
オルゴールだ!

取っ手を回すと,繊細な,小さくてきらきらした音色があたしの耳をくすぐった。
この曲は,なんて名前だったかな。
綺麗なメロディー。
なんだか,すごく懐かしいような…。



オルゴールと一緒に入っていたカードを開くと,そこには几帳面なひろしくんの字が並んでいる。

「クッキーへ。
 お誕生日おめでとう。
 クッキーの12歳が素敵なものとなりますように。
 この曲,昔クッキーが好きだったなと思って選びました。
 気に入ってくれるといいんだけど。
 ひろしより。」



昔好きだった曲…。
オルゴールの取っ手を回しながら,あたしは目を閉じて思い出そうとした。



長いお鼻の,パッチリした目の男の子のでてきた映画…。
…ピノキオだ。
そうだ,この曲は,ピノキオの映画で流れていた曲だ。


幼稚園の頃,あたしたちはこの映画が大好きだった。
ひろしくんの家でビデオをよく見たっけ。



あたしはカーテンを捲って窓の外を眺めた。
満天の星空。
あの映画にも出てきたな。



「……星に願いを」

口をついて出たのは,この曲の名前。



ひろしくん,ありがとう。
とってもとっても素敵な贈り物を,ありがとう。



あたしはオルゴールをそっと置いて,両手を合わせて目を閉じる。
そして,星に願いをかけた。


…何を願ったかっていうのは,ヒミツ。
この願い事は,もうしばらくあたしの中で温めておきたいんだもの。

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クッキーの誕生日記念です。
ひろしver.のside-Hも合わせて御覧になってください。