昇降口の脇から少し歩くと,花壇がある。
夏に生い茂った草木はしなりと頭を垂れていた。
秋が,来ているのだ。
花壇の縁にちょこんと腰かけた小さな影が二つ。
下校時刻を知らせる校内放送が鳴り響く中,昇降口はぱらぱらと子どもたちを吐き出していた。
「あ」
クッキーが小さく声をあげ,美紀は昇降口を見遣る。
1組の生徒らしい男子が,ちらほらと出てくるところだった。
その中でひときわ目立つ,背の高い男子がひとり。
ウエダだ。
「美紀ちゃん」
クッキーが振り向くと,美紀はぐ,と意を決したように立ち上がった。
そしてそのまま,まっすぐウエダを目指して歩いて行く。
クッキーはあわててその後を追った。
「たーくん」
そう呼ばれて,びく,と足を止めた。
声の主が,まっすぐ自分の顔を見上げている。
「タカシ〜どしたんだ」
「なに?たーくんってお前のこと?」
「こいつ誰だよ〜」
「ほら3組の…」
「へえ,こんなやつ居たっけ?」
周りに居た男子が,わいわいと騒ぐのを,ウエダがぴし,と腕を伸ばして黙らせた。
「…なんだよ」
「ちょっと話があるんだけど」
「お前なんかと話すことなんかねえよ」
低い声でウエダが言うと,群がった男子がそうだそうだ,と囃し立てた。
このひとたち,嫌い。
クッキーはきゅ,と両手を握りしめる。
「あんたになくても,あたしにはあるの。ちょっと付き合って」
騒がしい男子を止めたのは,鋭い美紀の一言だった。
さすがのウエダもびっくりしたのか,目を丸くしている。
「…ち」
小さく舌打ちをすると,ウエダは「そーいうことらしいから,お前ら先に行けよ」と告げる。
興味津津,という表情をしながらも,男子たちは帰って行った。
「…で,お前は何だよ」
男子の一団が去ると,ウエダがじろりとクッキーを見下ろした。
ぶる,と小さな体が震える。
「クッキー」
美紀が優しい声を出した。
「あたし大丈夫だから。先に帰ってて」
そう言われても,クッキーは素直に頷けない。
「クッキー」
なおもそう言われて,
「じゃあ,あたしあっちで待ってるから。」
そう言い,クッキーは美紀の眼をじっと見つめた後,花壇の先へ向かって行った。
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