放課後の時間がはじまっても,めずらしく3組の教室には,ほぼ全員が残っている。
みな,先ほど告げられたバッヂの話題でもちきりだ。
「やっぱさぁ〜俺のバッヂが一番人気なんだろうなあ〜」
と仁がにやける横で,
「さあどうかな〜」
飛鳥がさらりと前髪をはらう。
「いえ,それはわかりませんよ。作りやすさの点からいえば,僕のメダルは最適ですし」
眼鏡の奥の瞳をきらん,と輝かせながら勉が言う。
「あ〜私のメダル,結構複雑な形なのよね〜」
「あたしのもよ…」
「僕のだって,そうです」
ちなみに,きらら,ゆう,ひでのりの発言である。
「大丈夫よ,メダルの形を画用紙に模ればいいんだから」
「あ,そうか」
マリアの一言を聞いて,
そうだよ簡単じゃん,でも5つ作るの面倒だな〜,何言ってるのそんなんじゃ下級生に見本が見せられないでしょ,
などとがやがやと盛り上がる中,ヨッパーが両手を頭の後ろで組みながら,
「あ〜どうでもいいけど,居残りのこと忘れてない?」
と言う。
「「「げ」」」
その一言で,あきらたちの顔が青くなった。
先ほどの会議ですっかり忘れてしまっていたのだ。
「反省文くらいですませてもらえればいいんだけどな…。」
飛鳥は面倒臭そうにぽりぽりと頬を掻く。
「とりあえず,仁を逆上させないようにしないとな」
あきらはマリアと何事かを言い合っている仁の後ろ姿を見ながら,そう言った。
自分たちだって,腹の虫がおさまっているわけではない。
だけど,いつまでも相手にして居たってしょうがない。
ゆうの言葉が,今でも胸の中で響いていた。
わいのわいの,と盛り上がる一団をよそに,先ほどから美紀は自分の席でぼおっと座っていた。
「…美紀ちゃん」
美紀の机の上に,華奢な指がとん,と置かれる。
見上げると,心配そうにこちらを覗き込むクッキーが居た。
「…だいじょうぶ?」
「…クッキー」
「さっきの喧嘩のとき…美紀ちゃん泣きそうな顔してた」
「見てたんだ…恥ずかしいな…」
そう言いながら,美紀の眼にはうっすらと涙が浮かんでくる。
たまらずクッキーは美紀の手を取った。
「ねえ美紀ちゃん,今日は一緒に帰ろ」
「…うん,そうだね…」
無理やりだろう,それでも笑顔を浮かべて,美紀はランドセルの蓋を開ける。
のろのろとした動作だったが,それでもノートや教科書を詰めていく。
ふと,その手が止まった。
「…クッキー」
「なあに?」
「あたし,やっぱり残る」
「え?」
「たーくんと,会って話そうと思うの。」
「…」
ノートを握りしめた手が微かに震えている。
それを見ながら,クッキーが小さな声で,
「だいじょうぶ?」
と尋ねた。
「…うん」
こくりと頷く美紀をじっと見たのち,クッキーは美紀の手にそっと自分の手を重ねた。
顔を上げた美紀に向って,クッキーはちいさな声で
「あたしも一緒に行く。」
と告げた。
ちいさな,しかし力のこもった声で。
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