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そらのしたで >>きみのかたち1

昼休み。
多くの生徒が校庭に飛び出して,運動やらおしゃべりやら,思い思いに楽しんでいる。
一方,6年3組の教室は,めずらしく多くの生徒が残っていた。
5時間目は特別授業。
下級生のクラス―1年3組から5年3組まで―にて,揃いの応援グッズであるバッヂを制作することになっているのだ。
それにむけて,防衛組の面々はバッヂの見本を仕上げる作業に取り掛かっていた。

「よーっし終わりぃ」
あきらが5枚のバッヂを作り終えて背筋を伸ばした。
意外と器用なあきらは,5枚すべてに綺麗なメダルを描いている。
「なあ,あきら〜ここんとこどうやんだ?」
そう仁に尋ねられて,あきらはほいほい,と教えてやる。

「あ〜ん,うまく描けないわ」
ポテトが声を上げる。
「あたしイラストだけは苦手なのよね」
と,呟く横で,ときえが「じゃあ美紀に見てもらったら」と声をかけた。
「あ,そうねえ〜。ね〜美紀〜」
「はいはい。どれどれ…」
「あ,ついでにあたしのも見て」
「あ,きららずるい,そんじゃあたしも〜」
「も〜,そんなにいっぺんに言わなくても,ちゃんとみんな見るから。ちょっと待ってて」
美紀が可笑しそうに言い渡す。

美紀ちゃん,絵を描くの上手だからな。
クッキーは少し離れた自分の席から,皆に囲まれて笑っている美紀を見つめていた。
ゆうと美紀,そしてマリアは3組の中でも絵がうまい。
それだけに,こういう時はきまって頼りにされるのだ。

でも,あたしのだって,結構うまくいったもん。
クッキーは手元に並べたハート形のバッヂを見て,うん,とひとり頷く。

「あらクッキー,上手に出来てるじゃない」
ラブに声をかけられて,クッキーは照れた。

あははっ,と笑い声が響いてくる。
教室のそこかしこで,お互いのバッヂを見せ合う姿。
そのなかでも,ひときわ楽しそうに喋っているのが美紀だった。

「…美紀ちゃん」
クッキーの一人言にラブがん,と反応する。
「ああ,美紀ね。なんか今日の美紀,すっごく明るいわよね。
やっぱり絵が好きだと,こういう作業も楽しいんでしょうね」
ラブが嬉しそうにしゃべるのを,クッキーは複雑な思いで聞いていた。

クッキーの眼には,美紀が無理しているように見えてならなかった。



予鈴が鳴り,マリアはゆうとポテト,ヨッパーとともに2年3組の教室へ向かった。
戸を開けるなり,女の子が一人,
「お姉ちゃん!」
と飛び出してきた。

「るりこ」
「えへへ〜」
るりこはゆうの妹である。
去年は邪悪獣ベジベジの騒ぎで大変な思いをしたが,それにもめげることのない元気な女の子である。

「あたし,お姉ちゃんのメダルのかたちにするの!」
そう言われて,ゆうは嬉しそうに微笑んだ。


黒板に貼ったバッヂの見本を,背伸びしながら見るちいさな下級生の姿。
これがいー,とか,このかたちはレアだ,とか,わいわいと喋っている。
ポテトも,ゆうも(そして無表情を取り繕いながらも,ヨッパーも)嬉しそうに眺めた。


「みんなー,どれにするか決めたら,班ごとに集まって作り始めてね〜」
マリアが声をかけると,
「はあーい」
可愛らしい声が一斉に返って来た。


本物のバッヂは,布を台紙代わりに使って,上に厚紙を張り付けるかたちにした。
これは,マリアが試作を重ねて考え出したのだ。
マリアはこういう作業は苦にならない。図画工作には自信があるのだ。
そして何より,出来上がった揃いのバッヂを嬉しそうに見せ合う下級生の姿を見るのが楽しみだったのだ。

マリアたちが担当した2年生は,低学年ということもあり,時間内に作り終えない子もちらほら出た。
そのため,明日の昼休みにまた作業することにして,マリアたちは教室を後にする。

戸口から出て行く時,るりこが立ち上がって,「お姉ちゃん,あとでね〜」と叫んだ。
周りの子どもたちは羨ましがって騒ぎ,ゆうは頬を染めて照れるものだから,可笑しくなってマリアたちは笑った。


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