「ひろしくん,今日も会議?」
「ううん,今日は無いけど。どうしたの?」
放課後。
ひろしは自分の机の前にちょこんと立つクッキーを見上げた。
「ねえひろしくん,あたしやっぱり…」
「なに?」
「やっぱり…あのお願い,なしでいいよ」
「どうしたの」
クッキーはもじもじと両手を組む。
「ひろしくん忙しいでしょ。時間取らせちゃうの,悪いし」
「構わないよ」
「でも…」
「いったん約束したことなんだし。ちゃんと付き合うよ」
「…いいの?」
「うん。」
ひろしはそう言うと,体操着の入った袋を取り出すと,
「タワーの練習のあとでいいよね」
と聞いた。
ここのところ,放課後は用事の無い者―ひろしや仁達のように準備に追われている者―を除いた,3組全員で組体操の練習をしている。
体育委員としてラブが,そしてブレーンとして勉が,練習のメニューを組み,篠田の監督の下,特訓を続けているのだ。
ひとクラス分の人数だけではとても足りないので,2組の面々にも協力してもらっている。
男子が中心となって土台を組み,タワーをつくるのだ。
練習を始めて数日,れいこは2段目でキメのポーズを作るまでになった。
足を踏ん張ること。背筋を伸ばすこと。しっかり前を見据えること。焦らないこと。
ラブに叩きこまれた「成功の秘訣」を繰り返し唱えながら,れいこは土台役の肩に足をかける。
「ゆっくりでいいからな」
2段目をかたちづくっている一人,谷口がれいこに声をかけた。
うん。
れいこは頷いて,谷口の肩に足をかける。
ピーッ。
ラブの吹く笛の音に合わせて,土台が立ち上がった。
ぐら,と揺れる。
一瞬,れいこは足がすくんだ。
「踏ん張れ!」
あきらが呟いた。
本当は,まだぜんぜん怖い。
立ち上がると,膝ががくがくするのを止められない。
でも。
れいこはぐ,と足に力を込める。
背筋を伸ばす。
両手を広げる。
あたしが失敗しても,みんなは付き合ってくれている。
何度だって,土台を組んでくれる。
だから,大丈夫!
「いいわよ,れいこ!」
「その調子です!」
ラブと勉が呼びかけた。
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