ウエダは空を見るのが好きだ。
何も考えなくていい,と思う。
高い高い位置にある鱗雲をぼんやりと見ながら,腰を下ろして壁に背を預けた。
運動場へ向かおうと昇降口に向ったら,6年3組の面々が居た。
別にいつものように喧嘩をふっかけてやっても良かったのだけれど。
そう思ったら,なぜか美紀の顔がちらついた。
途端に行く気がしなくなり,ウエダは屋上にやって来たのだった。
…このまま昼寝でもするか。
ウエダが目を閉じようとした刹那,誰かがウエダの名を呼んだ。
「…委員長」
ウエダが振り返ると,1組の女子学級委員長,ハラダが立っていた。
「…何か用かよ」
「別に。あたしが屋上に来ちゃ駄目なの?」
そう返されて,ち,とウエダは舌打ちをしたきり,黙る。
ウエダはこの学級委員長が苦手だった。
さっさとどっかへ行ってくれ,と思いながら目を閉じたが,ハラダは去ろうとしなかった。
ハラダは柵に手をかけて,うーん,と体を伸ばす。
「さっきちょっと,びっくりしちゃった」
「あ?」
「ウエダくんが下級生に優しいなんて,ちょっと意外だったわ」
「…見てたのか」
ふふ,とハラダは笑う。
「ああいう顔,他の人にも見せればいいのに」
「余計な御世話だよ」
さあ,と心地よい風が吹く。
渡り廊下を,きゃっきゃっと笑いながら下級生達が走り抜けて行くのが見える。
「あの2年生のふたり,幼馴染なんですって」
「……」
「小さい子は,いいわよね。一緒に居ても別にからかわれたりしない」
「…何の話だよ」
「別に。いいなあ,って思っただけよ。」
「何が」
「幼馴染が。」
ウエダはハラダを見上げた。
ハラダは風に長い髪をなびかせながら,どこか遠くを見ているようだった。
「この年にもなって,幼馴染も何もねえだろ」
吐き捨てるようにウエダが言う。
「そうよね。幼馴染だからずっと仲良しだなんて,ずるいわよね」
こちらに背を向けたハラダが,どういう顔をしているかわからなかった。
ウエダは何も言わず,ただ,ち,と小さく舌打ちをした。
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