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チョコレートに彼女は何を込めたのか?

チョコレートとは。
つまりはカカオ豆の加工食品である。
主な原料はカカオの種子を発酵させた上で,焙煎したものと,カカオ豆の胚乳を発酵、乾燥、焙煎、摩砕し冷却・固化したもの(カカオマス)である。
これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めれば,チョコレートという食品になる。
既製品で売られるチョコレートには,香料、糖質、植物油脂、甘味料が加わることが多い。

現在,「チョコレート」といえば固形のものが一般的に想像されるが,チョコレートの固形化は1847年、イギリスの会社によって初の固形チョコレートが発売されるまでは,飲み物であった。
カカオの原産地である中央アメリカにおいては,粉末を太の材料と混ぜたものを嗜好品,滋養強壮として飲用していたという。

固形チョコレートは,質量あたりの熱量が大きい―即ち,カロリーが高い。
そのため,軍隊のレーションに同封されたり、登山などの際の非常食として携帯されたりもする。
カロリーの面だけでなく、非常の際に甘味やテオブロミンが心身の安らぎをもたらすという意味合いも大きい。


…そういった,チョコレートの一般的説明は容易なのです。
僕,小島勉にとっては。

僕個人の好みから申しますと,ミルク成分が多いチョコレート,特にホワイトチョコレートの味を高く評価しています。
小島家では,間食には煎餅やおかき,饅頭といった所謂「和菓子」のほか,季節の果物などが専ら登場します。
勿論,クリスマスや誕生日といった祝い事の際には,ケーキなども食べますが。
ですからあまり,僕はチョコレートを食べる機会がありません。

ああそうでした,大学教授である僕の父は,論文執筆中によくビターチョコレートを食べているようです。
父はタバコは吸いませんので,作業のお供にはコーヒーとチョコレートが定番なのだそうです。

…話が逸れました。 兎に角,僕はチョコレートを特に好きというわけではありませんし,そこまで愛着を持つ食品でもないということなのです。

従って,来る2月14日,バレンタインデーと呼ばれる日に於いて,僕がチョコレートを貰えなかったとしても,それは僕の心身になんら障害は齎さないのです。

そもそも,バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、19世紀のイギリスのチョコレート会社キャドバリー社によって始められました。
日本チョコレート・ココア協会が、日本でバレンタインデーにチョコレートを贈るようになったことをきっかけに「チョコレートの日」として記念日を制定し、1970年代に定着したといわれています。
すなわち,この風習は人為的なものであり,もっと突き詰めて言えば,お菓子会社による陰謀なのであります。

はっ…「陰謀」などという単語の使用は,僕の心象にそぐわぬものでした。撤回します。
要は,チョコレートの販路拡大という目論見に則って作られた風習に,猫も杓子も乗っかってチョコレートを贈ると言う行動は如何なものかと思われます。

まあ確かに,世の中にあふれる様々な「風習」は,人為的に創られたものであることは確かです。
そして「周りの人がやっているから私も」という,流行に乗っかってしまうのも,人間の性とも申せるでしょう。

よって僕もまた,周りの女子たちがバレンタインデーにチョコレートを贈るという行為自体を否定したりはしません。
ただ…,何と申しましょうか,あまりにも皆さんがギラギラしていて,まるで競争であるかのように殺気立つのは如何なものかと思うのです。

思うのですよ,ねえ,れいこさん!

普段の明るく気さくなあなたは,どこへ行ってしまったのでしょうか。
あなたは今,相当に気合の入った顔をしています。
あなたは飛鳥君のファンクラブ会員であるからして,当然今日は『本命チョコレート』を彼に贈るつもりなのでしょう。

というか,僕は見てしまったのです。
今朝,ランドセルの蓋をあけて,あなたが文房具を取りだしているときに,鞄の陰にちらりと置かれた,綺麗にラッピングされた箱を!

…大体,『本命チョコレート』とは何なのでしょう。
本命があれば義理があるということで,チョコレートというたかが食品に質量や形状で差を付けて,贈る相手によって差別化するとは。
いや,義理のチョコレートという概念からして,お菓子会社による邪悪な企ての一部にすぎないというのに!
福沢諭吉だって,言ってたじゃありませんか,「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と。

はっ…また話が逸れてしまいました。

…話とは言っても,これは先程から僕が心の中で悶々と思考しているだにすぎないのです。
当のれいこさんはさきほどからそわそわした様子で,僕がこんな思いを抱いていることなどつゆとも知りません。

いえ,別にれいこさんが誰を好きであろうといいのです。
ただ,れいこさんも世の女子と同じように…いや,それ以上にこの瑣末なイベントに興じているのがどうも…不愉快なのです。

それはきっと,僕がれいこさんに対して下している評価の内容と,いまこうして殺気立っているれいこさんがそぐわないことに違和感を感じているからなのでしょう。

違和感。
それは,分析できないことに対する不満を伴って,僕の中で不愉快な気持ちを増大させています。

ああ…!せめてれいこさんがいつもの状態に戻ってくれたなら!
そうであったらば,僕のこの苛々も治まるのだろうに。

…苛々?
そうか,僕は苛々していたのですね…。
僕としたことが…。
所詮,こんなくだらないお祭りごときで…。

はっ,また言葉遣いが悪くなってしまいました!
くだらなく,は,ないです…。
多分…。

何でしょう,先ほどから僕は余裕がないようです。
こういうときは,気分転換に新鮮な空気を吸って頭を冷やしましょう。
そうしよう。



…はい?
何ですか,僕に用ですか?




えええ????

あ,はい…
どうも…あ,ありがとうございます。
はい。
いえ,
その,

大変に,嬉しいです…。



それは,彼が朝見かけた小箱だった。
「いつもお世話になってるから,そのお礼よ」という言葉とともに,勉の手に可愛らしくラッピングされた「チョコレート」が手渡されたのだった。

彼が今どんな心境に居るのか?
それは彼の表情を見れば,よくわかるだろう。

…彼の頭脳が,このとき思考停止状態であったことは,想像に難くない。




参考・引用元(wikipedia)


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