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救急箱 2

そのころ。
部室では、クッキーが一人残って後片付けをしていた。
(ひろし君…頑張ってたなあ…。)
ストップウォッチや、筆記具などを箱にいれる。
救急箱を棚に戻す。
(落ちこぼれなあたしに出来ることはこれくらいしかないけど…。)
簡単に部室の中を掃除する。
伸ばした腕から、いくつもの痣が見える。
(あたし…、いつまでたってもこんなままで…どんどんひろし君が遠くなっちゃう…)
ロッカーのドアをバタンと閉める。
「よし…終わり」
小さくつぶやいて、部室のドアを閉め、鍵を掛ける。
鍵置き場がある用務員室に向かおうと、歩き出した時…


校庭の方から、急いで走ってくる人影が見えた。
「…ひろし君!」
ひろしは、クッキーの前まで来ると、膝に手を当てはあはあと肩で荒い息をする。
「どうしたの?そんなに急いで…」
というクッキーの言葉を、ひろしが、
「クッキー!」
と強い調子でさえぎった。
「な、何…?」
「ちょっと腕見せて!」
「え…ちょ…」
「いいから!」
そう言うと、ひろしはクッキーの手を取り、彼女の袖を捲りあげた。

「ひ、ひろし君…」
「ひどい…」
「た、大したこと…」
「こんな…どうしてこんなになるまで…。ちゃんと手当てしてないじゃないか!」
ひろしはきっとクッキーを見詰めた。
「そんな…。見た目ほど痛くないもん…」
「嘘だ!」
「う…嘘じゃないもん!」
そう言うクッキーから、ひろしはぐいと鍵を奪い取った。
「ひろし君…?」
ガチャガチャと、鍵を開ける。
ひろしはクッキーの腕を掴んだまま、部室に入った。


「な…なに…?」
あっけに取られているクッキーを余所に、ひろしは救急箱を棚から下ろした。
そして、クッキーを椅子に座らせた後、箱の中から、軟膏薬を取り出した。
「ひろし君…」
ひろしは無言で、薬をクッキーの痣に擦り込んで行く。
「ちくしょう…ちくしょう…!」そう、呟きながら。


「ひ…ひろし君…。怒ってるの?」
クッキーが怖々そう聞くと、ひろしは低い声で、
「怒ってるよ」と言った。
「どうして…?」
「怒ってるよ!クッキーにじゃない!自分に対して!」
「……」
あまりの剣幕にクッキーは何も言えない。
「何にも気づかないでいた僕に!こんなになるまでクッキーを止めなかった自分に!」
「……」
「なんで…なんで気付かなかったんだ!ちくしょう…」
「ひろし君が怒ることないもん…」
「クッキー!」
クッキーがびくっと体を震わせた。
「僕に心配かけたくないからって、内緒にしてたんだろ?」
そう言うと、ひろしは立ち上がり、救急箱を元に戻した。
「……」
「いつもクッキーのこと守るって決めてたのに…僕は結局、何も知らないまま、自分のことばっかりだったんだ!」


「あたしのことだもん…。あたしがしたいようにしただけだもん…だから、ひろし君が怒ることないもん…」
そう言ってクッキーが目線を上げると、ひろしの悲しそうな顔があった。
とても悲しくて、悔しそうな顔。


「……そうだよな…。クッキーにとって、僕は関係ない、ただの幼馴染だもんな…」
小さな、低い声で、ひろしが呟く。
「ひ、ひろし君…」
「ごめんよ、びっくりさせて。」
そう言って、ひろしは寂しそうに口元だけで笑った。
「でも、これだけは言わせて。怪我するまで無理して頑張らないで。
 ……もっと自分の体を大事にして欲しい。お願いだ」
「……うん…」
「じゃあ、僕はもう帰るよ。」
「あ…」
「あ、そうだ、マリアたちが一緒にご飯を食べにいかないかって。駅前のファミレスだってさ。
 じゃ、伝えたから」
そう言うと、ひろしは部室から出て行った。
クッキーは部室に一人、取り残された。
ひろしの悲しそうな笑顔が目に焼き付いて、何も考えられなかった。



マリアは、皆でご飯を食べながらも、ひろしとクッキーのことが気になった。
(ひろし君のあんな顔…見たことなかったかも…)
一向に二人が姿を見せないことも、気になってしょうがない。

「なんだよ〜あいつら全然来ねえじゃねえかよ〜」
ハンバーグをつつきながら、仁が文句を言う。
「まあまあ、いいじゃないか。二人で仲良く過ごさせてあげれば」と、飛鳥。
「いいなあ〜クッキー。ラブラブで。ねえ〜飛鳥君、今度は二人きりでデートしましょうよ」
きららが飛鳥の肩に頭を載せる。
「あ〜ずるい。きららったら!」
とれいこ。
結局その後も、2人は店に現れることはなかった。



マリアは自宅の電話を手に取る。
(あたしったら…また余計なお世話かしら…でも…)
プッシュボタンを押す。
「あ…こんばんは。あたし、白鳥マリアです。クッ…容子ちゃんをお願いできますか?」
「はい、ちょっと待っててね」

「はい…」
「クッキー?あたしマリア。今日はどうしたの?店で待ってたのよ」
「ごめんなさい…」
「…どうしたの?クッキー、何かあったの?」
「マリアちゃん…あたし…」
クッキーの声が次第に泣き声になっていく。
「ちょっと…、どうしたの?大丈夫なの?」
「マリアちゃん…あたし、ひろし君を怒らせちゃって…それで…」
「ええ?」
「ひろし君に嫌われちゃった…どうしよう…」
マリアは居ても立ってもいられなくなった。
「ちょっと待ってて!クッキー、今からあたしそっちへ行くから!」


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