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そらのしたで >>絆創膏2

「クッキー,さっきはごめんね,大丈夫だった?」
昇降口で靴を履き替えているクッキーに,飛鳥が声をかける。
「あ,あたしこそごめんね。大したことないから」
ちょろりと舌を出して見上げた額の絆創膏に,飛鳥がそっと触れた。
「…飛鳥くん」
「女の子の顔に怪我なんてさせちゃって。本当にごめんね」
かあ,とちいさな頬が真っ赤に染まり,慌てて一歩退いた。
「う ううん!あたしがドジだからだよ!勝手に転んじゃったんだし」
「でも…」
「今度は失敗しないから!だいじょうぶだからね」
「…うん」
顔を見合せてにっこりと笑った。

予鈴のチャイムが玄関に響く。
「あ,いけない」
「急いで戻ろう」
「うん!」


午後じゅう,ずっと運動場に居たせいだろう,少し眠い。
着替えを済ませた飛鳥は席に着くと,軽く首を回す。
優等生であるからには,居眠りなんてできない。
今日の授業はあと少し。
窓越しに,少し傾きかけた太陽が見える。乾いた風が吹き込んで,飛鳥は乱れた前髪を直した。

パンパン,と手をたたく音がして前を見ると,篠田が「ホームルームを始めるぞ」と大声を上げている。
それまでガヤガヤと騒がしかった教室が,ようやく落ち着きを取り戻す。

今日のホームルームは,少し長引くかもな。
黒板前へ進むマリアと仁の後ろ姿を見送りながら,飛鳥は眠気を振り払う。

「それじゃあ,仁,マリア,あとは任せたぞ」
篠田は二人にそう告げると,自分の椅子へ腰を下ろした。

エヘン,と偉そうに咳をして話しだそうとする仁を遮って,マリアが話し始める。

「では,話し合いを始めます。
このあいだ決まったように,あたしと仁が3組の応援団長をすることになっていますけど,
あたしたち応援団だけで応援の内容を決めちゃうのも寂しいので,
皆さんからアイデアを募集したいと思っています。」

説明を続けるマリアを不満そうに横眼で見ていた仁が,それでも大人しく黒板に『応援アイデア』と書きだす。
なんだかんだ言って,いいコンビだよな,あの二人。
黒板に大きく書かれたへたくそな文字が,なんだか微笑ましい。


陽昇学園の運動会は,クラスごとに色分けしたチームを作り,得点を競い合うことになっている。
そして各クラスから男女2名の応援団員が選出される。
加えて6年生は,チームの代表として男女一人ずつ応援団長を選出するのだ。
すなわち,1年3組から6年3組までをひとチームとし,そのリーダーを仁とマリアが担うわけである。

応援団長はその名の通り応援のリーダーであるが,同時にチームをまとめて団結させる役割もあった。
ライジンオーのメインパイロットである仁は,下級生からの人気も抜群であるうえ,根っからのお祭り好き&熱血という性格もあって,満場一致で選出された(本人が立候補し,その売り込みも大きかったのだが)。
仁を御することができるのはマリアだけ,という理由もあり,リーダーとしての器を買われたマリアもまた,満場一致での選出となったのである。

毎年,応援スタイルは応援団が中心となって考案する。
どんな応援歌を歌うのか,小道具は何を使うのか,など,比較的自由に決めることができるようになっていた。

「はいは〜い」
「あきらくん,どうぞ」
「応援歌はオリジナリティあふれるもので勝負しなきゃだぜ!俺がバリバリパンクなイカした曲を作ってやるぞ!」
「オリジナリティは賛成ですけど,パンクって低学年にわかるんですかね?」
「その場合,伴奏はどうなるんでしょう…」
ひでのりと勉が呟く。
「応援歌って,太鼓とか笛とかでしょ」
「そもそも,パンクロックって応援歌に向いてるの?」
「ノォ〜!なんだよ皆,パンクの良さを分かってねえなあ」
「応援歌だったら,やっぱり地球防衛組応援歌でしょ!」
「あ,そうよね〜」
「あれだったら,皆で盛り上がれるじゃない」
いつの間にやらあきらの提案は流されてしまった。
マリアは黒板に『地球防衛組応援歌』と書き出す。

「ねえねえ,ユニフォームを作るって言うのはどうかなあ?」
クッキーが声を上げた。
「ユニフォームって,どんなものを作るの?」
吼児が聞くと,クッキーはニコニコと微笑みながら続けた。
「いままで,ハチマキくらいしかおそろいの物がなかったでしょ。
体操服とかを改造するのは大変だから,もっと簡単なもので…,そう!バッヂをつけるのはどうかな」
「それだったら作るのも負担にならないわよね」
「付けていても邪魔にはならなさそうだしね」
ゆうとラブが賛成して,クッキーは嬉しそうに笑った。
「一年生の子とかには,一緒に作ってあげたりして。当日だけじゃなくて,準備から一緒にやれたら,もっと楽しそうよね」
美紀も瞳を輝かせた。
「そうよね。各学年の意見も聞いて,デザインを考えたりしても,いいかも」
「いいんじゃないかな。これぞ3組チーム!っていう印になって,まとまれそうだし」
飛鳥とポテトも賛成した。
「なあ,それだったら,どんなデザインに作ればいいかな」
「そうだなあ,こう,強そうな感じでババーンとしたやつ」
「そんな曖昧じゃわかんないわよ」
「やっぱり,自分の好きなデザインでそれぞれ作ればいいんじゃない」
「それじゃなんだかさみしいな」
「まあ,まだバッヂ案が通ったわけでもないし」
「まあね…」
「デザインについては,決まったら考えればいいんじゃないの?」
「でも,できたらお揃いがいいわよね」
マリアはそれらの意見を黒板に書きとめ,
「あたしもバッヂっていいと思う。きっと下級生達も賛成してくれるんじゃないかしら。
じゃあ,うちのクラスからのアイデアはこんな感じで報告するわ。みんなありがとう。さっそく応援団会議で提案してみます。」
と,まとめた。
「とりあえず,俺達3組チームは応援でも優勝を目指す。そこんとこ,よろしくな!」
仁が負けじと声を張り上げ,話し合いはお開きとなった。


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