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そらのしたで >>タワー3

階段を急いで上がると,廊下の先が騒がしい。
マリアとラブは顔を見合せ,急ぎ足で向かっていく。
3組の教室前に,人だかりが出来ていた。


「ちょっと,どうしたっていうの?」
教室の戸口をひしと掴んでいたクッキーが,涙目でマリアにすがりついてくる。
「マリアちゃん,たいへん!1組の男子とうちの男子が喧嘩してるの…」
「何ですって?」

人だかりを押しのけていくと,睨みあう仁と1組のウエダを中心に,3組と1組の男子が言い争っていた。

「ちょっと,何してるの?!」
「…マリア!」
きららが振り向く。
「組体操の事で,1組の男子が言いがかりをつけてきたのよ!それで揉めちゃって,皆に広がって収拾がつかなくなっていって…」
「委員長が,今先生を呼びに行ってるのですが…」
勉が小声で補足する。
見れば,普段は冷静な飛鳥までもが顔を真っ赤にしており,その腕を吼児が必死に抑えていた。
まさに一触即発という雰囲気である。

「あんたたち,喧嘩はやめなさいよ!」
しかし,マリアは果敢にもその輪の中へと押し入っていった。

この辺りがマリアという少女の凄いところである。
もともと肝の据わったところがあったが,一年間防衛組司令官という責務を全うしてきただけあって,その度胸の良さには目を見張るものがあった。

ただし,今回はタイミングが悪かった。

「うっせー,女子は黙ってろ」
「キャッ」
1組男子のリーダー格,ウエダはそう言ってマリアをどん,と押した。
ウエダは背も高く,体格が良い。
力の加減をしていなかったのか,不意打ちだったからだろうか,マリアは尻もちをついた。

「マリア!」
仁の顔が歪んだ。
「てめぇ!マリアに何すんだよ!」
殴りかかろうとするのを,大介が必死に止める。
「へーんだ,ちょっと押したくらいで倒れてんじゃねえや,ぶりっこ」

「おい,ウエダ,お前やり過ぎだぞ」
そう言ってウエダに突っかかったのは2組の谷口だった。

「なんだよ谷口,お前は関係ねーだろ」
「そーだそーだ」
ウエダの左右に居た1組男子が囃し立てる。
「女子に手を挙げるなんてサイテーだぞ」
谷口は怯むことなく,そう言い放つ。


「そいつが勝手に倒れてんだ。弱っちーくせに突っかかってくんのが悪ぃんだよ」
「そうそう。女子なんて頼りねーくせに目立とうとして,胸糞わりぃ」
「やっぱさー,女子が頂上をやるなんて,無理なんだよなあ」
「そーだそーだ!」
「防衛組だからって調子に乗ってさ,ひっこんでろ,ってなあ」
「んだとぉ!もう一度言ってみろ!」
「何度でも言ってやるさ。そんな弱い奴をかばってるお前らも,高が知れてるよな」
「そーだそーだ!」
「ちくしょー!もう許さねえ!」
大介の腕を振り払って,仁がウエダに殴りかかろうとしたその時だった。


仁の放ったパンチは宙をかすめた。
大きな手が仁の腕を掴んだのだ。
篠田だった。

篠田は厳しい顔で少年たちの顔を見据えると,低い声で一言,
「お前ら,言いわけは後で聞いてやる。放課後居残りだ。」
と言った。
「だってせんせ」
「仁!…あきら,ヨッパー…,飛鳥まで何だ。6年生にもなってこんなところで喧嘩とは。
とっくにチャイムは鳴ってるぞ。とっとと教室へ入るんだ」

いつの間にか,1組と2組の担任教師もやって来ていた。
篠田の言葉を合図のようにして,生徒たちはばらばらとそれぞれの教室へ戻っていく。
互いに目を合わせぬまま…。


仁は篠田を睨みつけたまま動かない。納得していないのだ。
そんな仁の腕を取り,「行こう,仁」と促したのはマリアだった。
「…マリア」
「あたしは平気よ。さ,入りましょ」


教室の隅では,ゆうに肩を抱かれたれいこの姿があった。

…そうだった。
今一番大事なのは,喧嘩することじゃなくて,れいこをフォローすることだったんだ。
そう気づいて,飛鳥は唇をかみしめた。


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