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そらのしたで >>タワー4

「先生」
3組の生徒が全員席につき,篠田が教卓の前に立つと,ひろしが挙手をした。
「何だ,委員長」
「学級会の議題,変更させて下さい」
「……」
篠田はひろしの顔をじっと見つめると,「いいだろう」と答え,自分の机に戻って腰掛けた。


ひろしは目でマリアに合図をし,立ち上がると教卓の前に進み出た。
「…さっきの喧嘩の反省は,各自でやってください。
それよりも,どうしたら組体操が成功するか…,れいこが立てるようになるのかを,みんなで考えたいと思うんだけど,みんなどうかな」
ぱちぱちぱち,と,賛成の意を表す拍手が上がった。


「い…いいよ,そんなこと!」
その拍手を遮るようにれいこが立ち上がった。
「…さっきの,1組の男子が言ってたことだって…間違ってないもん。
あたしが勇気を出せないせいで,組体操が完成しないんだから…。
これ以上,みんなに面倒かけたくないよ…。」
「…れいこ…」
マリアが心配そうにれいこを見つめた。
「だから…あたしやっぱり交代してもらうよ…」


絞り出すように言うれいこをじっと見つめていたラブが,
「れいこ,本当にそうしたいの?」
と聞く。

「……。」
「……頑張りたいって,思ってるんでしょ?」
ラブの言葉を受けるように,きららが優しく続けた。

「……でも…でも…」

れいこの机にぽたり,と涙が落ち,机にうっすらと染みを作った。

「…れいこ…」
ゆうが心配そうな声を出す。

「…だれも面倒なんて,思ってないぜ」

仁が,ぎいと音をたてて椅子を漕ぐ。

「れいこはきっと立派にやり遂げるって,みんな思ってるよ」

「仁……飛鳥くん」

「僕もそう思ってる!れいこならできるよ!」
吼児が振り返って言う。


「それにさ,れいこが一人で抱え込まなくてもいいんだよ。」
「そうよ,飛鳥君の言うとおりだわ。」
きららが明るい声を出す。
ねえ,みんな。
きららの呼びかけに,同意の声が次々と上がった。
「みんなで考えれば,何かいい方法が見つかるわよ」
「3人寄れば文殊の知恵,と言いますし。僕たちは全員で18人居るのですから」
ときえがにっこりと笑いかけ,勉は眼鏡を持ち上げながらそう言った。


「…れいこ」
マリアが微笑みかける。


れいこは顔をあげ,照れくさそうに笑った。
久しぶりの,笑顔だった。

「よし。じゃあ,何かいいアイデアがあるひとは,挙手して言ってください。」
ひろしは声を張り上げた。


「ハイ」
「どうぞ,石塚さん」
「高いところに慣れるって言うことが,やっぱり大事だと思うの。
どこか,高いところへ登ってみればいいんじゃないかしら」
「高いところかぁ〜」
「屋上とか?」
「何かそれって,違うんじゃない?」
「れいこはもともと高所恐怖症ってわけではないんでしょ」
ざわざわと,教室が騒がしくなる。

「僕の家のヘリとか,どうでしょう」
ひでのりがぽつりと呟く。
「…それだと,高すぎない?」
ヨッパーがそれに突っ込みを入れた。

「催眠術を試してみてはどうでしょう」
そう言ったのは勉だ。
「僕はちょこっと催眠術についても勉強しているのです」
「あ,それいいかも〜」
同意したのは吼児だ。

「催眠術って,TVとかでやってるようなやつ?」
「でもああいうのって,何か信用できない〜」
「単純な人なら掛かりやすいって聞いたけど」
「篠田先生みたいな人のこと?」

「おいおい」
篠田は思わず声を上げる。
「俺が単純かどうかは置いといて,催眠術なんて,専門家でもないのに簡単に出来るもんじゃないと思うぞ。
それに,むやみに高いところへ上るのは,安全の面から言って認めることはできんしな」

篠田の発言を聞いて,子どもたちは一様にうーん,と考え込んでしまった。


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