「やっぱり特訓よ」
ラブが立ち上がる。
「ただ,急に高いところで立つのは難しいから,少しずつ段階をあげていけばいいんじゃないかしら。
あたしたち18人でできるくらいの高さで,まずは立てるように。
それが出来るようになったら,他のクラスに協力してもらって高くする。」
「とりあえずその方法が現実的ですね」
ラブの説明を受けて,ひでのりが賛同する。
「2組の人たちなら,特訓に付き合ってくれそうだしね」
「そうだな…。皆で頼みに行こうぜ」
吼児とあきらも声を上げた。
「どう,れいこ?特訓…,する?」
マリアがそう聞くと,れいこは力強く頷いた。
「あたし,やるわ。頑張る。みんな,宜しくね!」
「「「おう!!!」」」
れいこの声に,17人の声が応える。
「…れいこや皆が前向きに取り組む気持ちだということはよくわかった。
先生も,れいこは大丈夫だって思っている。
先生はれいこがこのまま頂上役を続けると,先生方に伝えておく。
でもれいこ,いいか。決して無理はするな。
成功することよりも,頑張ろうと努力することの方が,ずっと素晴らしいと先生は思っているぞ。」
篠田が噛みしめるようにそう言葉を紡ぐ。
れいこは篠田の方を向いて,頷いた。
その眼差しだけで,充分だ,と内心篠田は思う。
「じゃあ,皆で放課後に特訓するという事で決定します。早速今日の放課後から,どうかな?」
ひろしがそうまとめると,皆さんせ〜い!と口々に答えた。
「あ,でもさっきの喧嘩の…」
吼児がしまったという表情を作って呟く。
「げ」
ヨッパーがそれに反応し,ひろしが篠田の方を伺うように見た。
「…放課後居残りは,やってもらうぞ。原因が何であれ,喧嘩は良くない。
ちゃんと反省して,仲直りするんだ」
篠田はきっぱりと言った。
「でもあれはあいつらがわるいんだぜ,先生」
我慢ならないというように仁が立ち上がる。
「僕もそう思います」
珍しく飛鳥も声を荒げた。
「喧嘩は良くなかったかもしれません。でも,あいつらを許すことはできません」
飛鳥は静かに怒っている。
そうだ,そうだ,とにわかに教室はざわめいた。
「でも,喧嘩してたら,組体操だってうまくいかないんじゃないかしら…」
ぽつりとゆうが呟く。
「…ゆう」
ゆうはす,と立ち上がり,皆をぐるりと見渡した。
「あたしだって,あの人たちの言ってたことはひどいと思ったわ。
…でも,ずっと喧嘩したままで,ひとつにまとまって演技をすることは難しいと思う。
このまま争っていても,いい結果にはつながらないんじゃないかしら」
仁,飛鳥,あきら。きらら,ときえ…,好戦的な態度を示していた者は,目を丸くした。
普段はおとなしいゆうが,こんなにはっきり物をいうことは珍しい。
それだけに,ゆうの言葉が,胸に突き刺さるようだった。
「あたしもそう思う。…くやしい気持ちがあるのは確かだけど,ここはあえて大きく構えたらいいじゃない。」
ラブも立ち上がってそう言った。
「でもさ,1組の男子はあんなに私たちを目の敵にしてたのよ,今更まとまるなんて出来るかしら」
ポテトがそう言う。
「表面上,謝ることはあっても,仲直りとまではいかなさそうだよな」
大介が自信なさそうに呟いた。
「俺だって,あいつらが謝ってくるまで,許すつもりもねえからな!」
ふん,と鼻を鳴らして仁が息巻く。
「…とりあえず,特訓は明日の放課後からはじめるってことでどうかな。」
ひろしがそうまとめると,皆が頷く。
「あたしは特訓の内容を考えておくわ!」
ラブが振り返って,れいこにウインクした。
れいこも嬉しそうに微笑む。
「うん!頼りにしてるわ,ラブ。皆,よろしくお願いします!」
ぴょこ,とおじぎをするれいこに,みな拍手を送った。
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