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そらのしたで >>きみのかたち7

最近は,屋上にばかり来ている気がする。
そして,ハラダがこうして昼寝の邪魔をしに来ることも。


「鬱陶しいな。あっち行けよ,屋上は広いんだから」
「あら,クラスメイト同士じゃない。邪険にしないでよ」

どうも自分のペースが出せない。
ハラダはちっとも自分に臆することがない。
それどころか,何を考えているか分からないような,底知れなさがあった。
ウエダはち,と舌打ちする。


「2組は応援バッヂに参加することになったそうよ」
「…」
「うちのクラスにも,下級生から参加したいって希望が来てるらしいわ」
ヨコヤマくんがどうしよう,って頭を抱えてた。
ハラダはそう続けてから,ウエダを見遣ってふふ,と笑う。
「…なんだよ」
「ヨコヤマくんが何で困ってるかって,わかるでしょう?」
「わかんねえよ,そんなこと」
ウエダはごろん,と寝っ転がった。

「好い加減に素直になれば」
「…なんだよ」
「気になるんでしょう,3組のこと」
ハラダはまたふふ,と笑う。
「…そんなわけねえだろ」
「気にならなかったら,何であんなにつっかかろうとするのかしらね」
「……」
「好きな子に意地悪しちゃうのと同じね。子どもみたい」


ウエダはち,と舌打ちする。
「そんなんじゃねえよ」
「じゃあ,なんなの」
「…ただ,気に食わねえだけだよ」
「ふうん」
ハラダは相変わらず微笑んでいる。
「…オレに構うな。放っとけよ」
「それが,そういうわけにもいかないのよね」
「は?」
「あたしもバッヂ作りに賛成だもの」
「……」
「気づいてるんでしょ。他のクラスのみんなが,本当はバッヂ作りに賛成してるってこと」
「……」
「でも,ウエダくんのご機嫌を気にして言い出せずにいるってこと」
「俺が悪者かよ」
「そうね」
あっさりとそう返されてウエダは黙る。
「でももうわかってるんでしょ」
「……」
「本当に子供っぽいことをしてるのが誰かってこともね」
ウエダはち,と舌打ちした。
ハラダが,ふふふと笑った。




1組からも応援バッヂに参加させてほしい,という申し入れがあって,仁とマリアは歓迎の意思を伝えた。
応援団長のヨコヤマは申し訳なさそうに,でも助かったという表情で,「ありがとう」と頭を下げる。
「べつにそんな,大袈裟なことでもないじゃない」
マリアがぱん,とヨコヤマの背中を叩いて朗らかに言うと,ヨコヤマは苦笑しながら,
「うん…。だって僕のクラスの奴ら,最近仁達につっかかってたし…」
という。
「ああ…」
仁はウエダの顔を思い出して,すこし表情を曇らせた。
そう言えば最近,あいつを見かけない。

「ウエダだろ,ごめんな。」
「いいよ,別に」
それに,ウエダだけのために1組の下級生達に冷たい態度を取ることはないしな。
仁がそう言うと,マリアが目を丸くした。
「…なんだよ」
「あんたも大人になったのねえ」
「俺は最初から人間が出来てますから」
「あら,全然気づかなかったわ」
「なんだと!」

目の前で夫婦漫才を始めた2人に向って,ヨコヤマはほっとしたように笑う。
「それにさ,最近ウエダも大人しくなっちゃって。
そのせいで他の奴らは言いたいことが言えるようになったって,ちょっと喜んでたりもするんだよな」
ヨコヤマの発言に,マリアは複雑そうな表情を浮かべた。
「何か有ったの?」
「いや,特に何も…。ウエダも聞かれて答えるような奴じゃないしさ。
でもま,良かったよ。
今回のバッヂの話も,あいつが賛成したからすんなり決まった,って感じだったし」
「へえ…意外だわ…」
「なんか最近,あいつ変なんだよな。黙ってることが多くなったし。
でもまあ,それでも影響力のある奴だから,今回は助かったけどね」
「ふーん」
仁は興味なさそうに,それでも応える。
「あ,ごめん,余計な話だったな。それじゃ,本当にありがとう。
また後で,バッヂの作り方とか教えてくれ。とりあえず,皆に報告してくるから」
そう言って,ヨコヤマは自分のクラスへ戻って行った。

その後ろ姿を見送りながら,マリアは仁をちら,と見てから
「仁…。まだウエダくんのこと,怒ってるの?」
と訊いた。
「別に。興味ねえよ,あんな奴」
仁はそっけない。
「…そう」
マリアはさみしそうに一言漏らした。
急に仲直りなんて,やっぱり虫の良い想像だったか。
そんなことを,思いながら。


「タイ子と中介も,羨ましがっててさ。だから良かったよ」
大介が嬉しそうに言う。あまつさえ仁の手をぎゅ,と握り締めたものだから,仁の両手はしくしくと痛んだ。
「痛てえよ大介。本気出すな」
「ああ,ごめんごめん」
大介の握力は侮れない。
「あいつら,揃って1組だったろ。なら,青色のバッヂかな」
仁がそう言うと,大介はそうだね,とにっこり頷いた。
「二人には,俺のメダルデザインにしとけって,言っとけよな」
「こら,仁!」
横でマリアが頬を膨らませる。
仁はまだ人気一位の座をあきらめていなかった。


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