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そらのしたで >>青1

応援バッヂへの参加が決まって以来,1組の男子も放課後のタワー練習に参加するようになった。
最初はおずおずと,「暇だから付き合ってやるよ」といいながら近寄って来た。
それを飛鳥が,にこりと笑って助かるよ,ありがとう,とさわやかに受け入れたものだから,1組男子も素直になれたらしい。
その陰で谷口が,あいつ男にもモテるのな,とあきらに囁いたものだ。
最近は放課後になると当然のことのようにやってくるようになった。

運動会まで,あと2日。
人数が増えたことで,タワーも本番さながらの様相を呈してきた。
そしてれいこは,完成まであと少し,の段階までクリアしていた。
ただ,どうしても最後のポーズだけが,うまくいかない。

ピーッ。

ラブが吹いた笛を合図に,土台役が腰を上げていく。
一段,二段,三段,四段。

「れいこ!上を,上を見ればいいの!そうすれば,怖くならないから!」
ラブの激が飛ぶ。

わかってる…わかってるけど…

れいこはおずおずと見上げた。
見上げた先にひろがる途方もない空に,くらくらした。

「れいこ!」「れいこさん!」

れいこの体が揺れた。
揺れて,そのまま自由落下を始める。


「れいこーっ!」


がしっ

駆け寄った篠田がれいこの小さな体を受け止める。
それはかつての光景と同じだった。

そのまま今日の特訓はお終いになった。




「……」

あれかられいこは一言もしゃべらない。
小さな体に全てを背負って,溜め込んでいるのだろう。
涙も,不安も。


「れいこ」
ランドセルを背負い,とぼとぼと歩く後ろ姿にマリアは声をかける。
「あたしたち,れいこがやり遂げるって信じてる」
「……」
「みんな,信じてるよ」
「……マリア」
れいこは立ち止まる。
「……ありがと」
ひとことだけ,小さな声でそう言うと,振り返ることなく歩き去った。

誰もれいこを追うことができなかった。



「なあ勉」
「はい,何でしょう」
「ちょっとワガママを言ってもいいかな」
「…はい?」
不思議そうに顔をもち上げた勉の眼鏡には,真剣な眼差しの飛鳥が写っていた。


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