れいこは,ひとり川沿いの道を歩いていた。
俯くれいこの眼には,自分が踏みしめているアスファルトが映っている。
しかし彼女はそんなものなど見ていなかった。
(…こわい)
(…こわいよ…)
(やっぱり,駄目なんだ)
(あんなに特訓したのに,やっぱりあたしじゃ,無理なんだ)
自分を必死に支える皆の姿が浮かんでくる。
見上げたラブの顔。勉の顔。谷口の声。あきらの励まし。みんなの頑張れという声。
(みんな,協力してくれたのに。せっかくみんなが応援してくれたのに)
涙が一つ,ぽろりと落ちた。
そのあとは,もうとめどなく溢れてくる。
(ごめんね,みんな。…ごめんね)
遠くから音が響いてきた。
それは,ごお,と空気がうねるような,爆音だった。
風が吹いた。
一筋の,鋭い風。
れいこはその勢いに目をつむる。
風は次第に強くなり,れいこの涙をさらった。
押し寄せる空気の波が,今にも体を吹き飛ばしそうだ。
れいこは足を踏ん張る。
風は通り過ぎない。
れいこを捉えて離さない。
まるで台風の中に居るようだ。
『れいこ!』
聞き慣れた声が頭上に響く。
見上げると,そこには空が無かった。
代わりに,大きな翼をたたえた赤い機体が舞っていた。
「飛鳥君?!」
「れいこ,ちょっと下がってて」
鳳王に付いた外部用スピーカーを通して,飛鳥の声が響く。
慌ててれいこが後ずさると,鳳王は河原に着陸した。
完全に着陸したことを確かめると,れいこは鳳王に駆け寄った。
腹部にある出入り口から,パイロットスーツ姿の飛鳥が現れる。
「飛鳥君!どうしたの?」
「ちょっとね。…れいこを迎えに来たんだ」
「どうしたの?邪悪獣が出たの?!」
「違うよ」
「…え?」
飛鳥は,右手をすっと差し出す。
「僕とデートしてください,れいこさん」
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