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そらのしたで >>青3

わけのわからないまま,れいこは鳳王のコックピットに入った。
そしてそのまま操縦席の後ろに座らされる。
「しっかりつかまってて」
そう言われ,目の前のシートにしがみ付くと,爆音とともに機体がふわりと上がった。

耳が,きーんと鳴って,思わずれいこは目を瞑った。

機体の上昇に合わせて,まるで高速のエレベーターに乗っているような,不思議な感覚を味わう。

「れいこ,目を開けてごらん」
飛鳥の優しい声を聞いて,れいこは瞼を開けた。
「ほら,見て」

コクピットの窓越しに,空が広がっていた。
見渡す限りの,青。
そこには,他に何もなかった。
ただ,果てしなく青が続いているだけだった。


「…きれい…」
ぽつりと,声が出た。


圧倒的だった。
それだけしか,言えなかった。



鳳王が,今どれくらいの速度で空を飛んでいるのか,わからない。
通り過ぎるものが何もないから。
自分がどこまで高く上がっているのか,わからない。
見渡す限り,青が広がっているから。


「れいこに見せたかったんだ」
「…飛鳥君」
「僕さ」
操縦桿を握りしめたまま,飛鳥は続ける。
「はじめて鳳王に乗った時から,不思議と怖いと思ったことが無かったんだ」
「……」
「こんなに高く上がるのも,自由に空を飛ぶのも,ちっとも怖いと思ったことが無いんだよ。なぜかね」
「……」

「れいこは,今,怖いかい?」
そう聞かれて,はた,と気が付いた。
「…怖くない…」
飛鳥は気配だけで笑った。
「やっぱりね」
「…やっぱりって,どういうこと?飛鳥君…」
「れいこもきっと,僕と同じように感じてると思ったからさ」
「同じように?」
「れいこは今,どんな気持ち?」

れいこはコクピット越しに広がる空を見た。

こんなに近くに,空を感じたことはなかった。




れいこは何も言わずに微笑んだ。

それを気配で感じ取った飛鳥もまた,微笑んだ。





「…うまくやってくれてるかしら,飛鳥君」
鳳王の去った方角を見つめながら,マリアがつぶやく。
「僕たちは,れいこさんと飛鳥君を信じてます…そうでしょう?」
マリアの隣で,ライジンコマンダーを手にした勉が答えた。


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