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そらのしたで >>空の下で4

『次は,クラス別対抗リレーです!』
放送委員のアナウンスを受けて曲が流れると,各チームの代表選手らは気合いの入った表情で入場した。


クラス別の対抗リレーは,各種競技の中で最も注目が集まる。
各クラスから代表に選ばれた選手が,1年生から6年生まで勢揃いしてリレーを行うのだ。
リレーは競技種目の花形ということもあって,白熱した戦いとなる。
当然,応援にも熱が入るというものだ。


「フレー!フレー!さ・ん・く・み!!!」
3組チームの応援団長はふたりとも代表入りしているため,臨時で応援団の指揮を執る大介が,その大きな体で音頭を取った。
勉とヨッパーが二人で応援旗を振る。


四方からかけられる応援の声に,仁はぞくぞくする。
無論,興奮で。


仁は今年もアンカーになった。
足の速さなら飛鳥も負けていないが,負けん気の強さと勝負強さで仁に決まったのだ。
ちなみに推挙したのは飛鳥である。


アンカーのみが付けられる襷を肩から下げて,仁は控えの位置についた。
隣に座る谷口と目が合った。
「今年は負けないからな」
そう言って谷口はにやりと笑う。
「そうはいくか。今年も俺らが勝たせて貰うぜ」
仁も負けずに言い返す。


パン!とスタートの合図が鳴る。

小さな手足を懸命に動かす一年生が,トラックを走り出した。



5年生の最終走者が走り終えた時点での順位は,1組,3組,2組であった。

ウエダはスタートラインでバトンを受け取った。
青色のバトンを手にし,加速しようとしたそのとき,ウエダは足元に違和感を感じた。



と思ったとき,ウエダは自分が転んでいるのを自覚する。

前走者とのパスワークが上手くいかなかったのだろうか,誰かにぶつかった。

したたかに膝を地面に打ち付ける。


どしん!

「ごめんなさ」
誰かの謝る声が耳に入ったが,構わずウエダは立ち上がり駆け出す。

今のロスで,またたく間に最下位に転落していた。



高学年が走る距離はトラック1周分。
懸命に追えば,まだ間に合うかもしれない。

ただ,膝がちりちりと鋭い痛みを訴えていた。


「…なんだよウエダのやつ!」
「せっかくトップだったのによお」

1組の控え選手からぶつぶつと文句が上がるのが聞こえて,マリアは眉をひそめた。


3組走者のあきらが先頭を行き,そのあとに2組走者が続く。
あきらはもうすぐトラック半分へとさしかかろうというところだった。


「あーあもう無理だよ」
「今年も最下位か〜。せっかくいいとこまでいってたのにさ」
「だよなあ〜ウエダのせいで台無しだぜ」
さっきから1組走者の愚痴はおさまらない。

「ちょ…」
声を上げようとしたマリアの前後から声が響いた。

「でもあいつ,まだ諦めてないよ」
と,飛鳥が,
「お前ら,仲間を信じてやれよ」
と低い声で仁が。

途端,彼らは気まずそうに黙ってしまった。



地面を蹴るごとに膝の痛みが増していく。

前方を走る2組走者との距離は縮まらない。
むしろ,離されているようにも感じる。


…やっぱり,無理か。
そんな考えがウエダの頭をかすめた。


こんな,こんなリレーごときに熱くなるなんて,自分らしくない。
別に手を抜いたっていいような気がしてきた。
好都合なことに怪我もしたし。

何かに熱中するなんて,子どもっぽい。
馬鹿らしい。
自分は,
そう自分は,
いつもそうやって斜に構えてきた。


…でも,本当にそれでいいのか?




「たーくん,がんばれ!」

声が聞こえた。




がんばれ



ぐん,と背を押された気がした。

そのあとは,無我夢中だった。



歓声が響いた。
ウエダがぐんぐんとスピードをあげる。
バトンパスまであと数メートルというところで,ウエダは前の走者に肉薄するところまで追い付いた。


「…あいつ,やるじゃん」
仁が,にやりと笑った。


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