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そらのしたで >>空の下で5

「なんだよ結局今年も仁に勝てずじまいかよ」
退場しながら谷口がぼやく。
「…負けなかったけど勝てなかったってのも悔しいぜ」
その横でしぶい表情を浮かべた仁が呟いた。

アンカー決戦は2組3組がほぼ同時ゴールという結果に終わり,すなわち決着がつかなかったのであった。

「…でも総合優勝こそは俺らがいただく」
「それはこっちの台詞だ」
そう言い合う仁と谷口の後ろで,マリアは呆れたような表情をしながら,
やっぱり双子みたいだわ。
と思った。


「大丈夫?!」
応援席へ戻ろうとしたウエダに美紀が走り寄った。
「はやく救護所へいかなくちゃ」
「大したことねえよ」
そう言ったウエダを見上げて,
「でも,バイ菌入ると大変だし,やっぱり手当てしなくちゃ駄目よ」
と美紀は続ける。

「…相変わらずだな,美紀は」
「え?」
「そうやってすぐ心配するところとか,昔からそのまんまだ」
くしゃりと笑ったその表情は,それこそ美紀にとって昔から見慣れたウエダだった。
「たーくん」
「…ありがとな」
「え?」
「…なんでもねえよ。じゃ,ちょっくら行ってくるわ」
そう言って背を向け,救護所の方向へと歩き出すウエダを見送りながら美紀は微笑んだ。

少し素直に振る舞えないところも,でも大事なことはちゃんと口にする正直さも。
あたしの知ってるたーくんだ。

「美紀ぃ〜」「美紀ちゃーん」
応援席からラブとクッキーが手を振る。
「次の演目が始まるわよ!」
「うん,今行く!」
美紀はラブに向って大声でそう答えた。
クッキーはにっこり,笑う。




組体操本番。


篠田の笛に合わせて,子どもたちは次々と技を決めていく。
そのたびに,観客席からは大きな拍手と歓声が上がった。

そしてついに,クライマックスがやってきた。


合図を受けて,れいこは土台の前に進み出る。

土台役のメンバーが,みなれいこの方を向いた。
れいこはひとつ,こく,と頷く。



土台が立ち上がる。
一段,二段,三段,四段。



篠田はひとつ息を吐くと,ぐ,と腹に力を込めた。
(れいこ,がんばれ)
そう心の中で唱えると,ピー,とひときわ大きな音を響かせる。

れいこはゆっくりと,しっかりと立ち上がる。


何も怖くない。
あたしには,皆が居てくれる。
皆が,支えてくれる。

あたしの上には空が広がっている。
雲ひとつない,真っ青な空が。
高い高い空が。
でももうあたしはその世界を知っている。

―だからもう,怖くない。


膝を伸ばす。
両手を広げる。
背筋を伸ばす。
胸を張る。

そして,す,と上を向いた。

見上げた先は,青だった。
果てしなく広がる,空。


そのとき,れいこは他の誰よりも近くに,空を感じた。


大きな拍手が起こった。


篠田が笛で合図をする。
その目はうっすらと涙に滲んでいた。


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