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そらのしたで >>空の下で6

演目の最後は,フォークダンス。
これは陽昇学園の運動会恒例である。


「はい,じゃあ僕が指示する通りに並んでください」
プリントを手にしたひろしが,入場門前に待機する6年3組の前で声を張り上げた。

フォークダンスはチームの区別なく入り混じって行われる。

入場の段階で各クラスを男女に分け,それぞれ列を作る。
そしてその列は学年で統合される。
なお,統合する際はクラスの人間が固まらないように配置される。
結果として男女1列ずつ×6学年の列ができる。
最終的にはこれらを学年順につなげて長い列をつくるのだ。
入場後は外周を男子,内周を女子として円を作らせ,曲に合わせて相手を交替して踊る。


「ではこれから他のクラスと合流します」
ひろしの声にうながされて,れいこたちはぞろぞろと移動した。


他のクラスの女子と合流して列を作り終えると,めずらしく自分が先頭ではなかった。
れいこはちょっと嬉しくなる。
ひろしに促されるままに並んだが,どうやら今回は背の順で列を作らなかったようだ。
ただそのわりに,自分の2人後ろにはクッキーが並んでいる。
クッキーはなぜか,胸の前で小さく手を合わせて目をつむっていた。

「どうしたの?クッキー」
振り返ってそっと声を掛けると,クッキーはえへへぇ,と笑った。
「…おまじない」
「おまじない?なんの?」
クッキーはひみつ,と言ったきりにこにこしている。

「まもなく入場します」
という声が聞こえて,れいこは列に戻る。
…よくわかんないけど,まあいっか。



曲も中盤に差し掛かった頃。
次にれいこの手を取ったのは飛鳥だった。
「飛鳥君!」
「やぁ」
にこっと笑った飛鳥を見上げて,れいこもまた笑顔になる。
「さっきはお疲れ様。格好良かったよ,れいこ」
「えへへ。どうも」
くるっと見事にターンを決めたれいこの体が,ちいさな風を作り出す。
「飛鳥君のおかげだよ。ありがとう」
見上げて,その日いちばんの笑顔を見せた。
飛鳥も,それに負けないくらい飛び切りの笑顔を返す。



「あ」
「…おう」
胸には,さっきあげたバッヂが付けられていた。
それを見た美紀が,ぱあ,と表情を明るくする。
「つけてくれたんだ」
「…しょうがねえから付けてやったまでだよ」
「それでも,つけてくれたんだね」
にこにこと繰り返す美紀を横目でちらりと見て,ウエダが小さく呟いた。
「…おさななじみ,だからな」



意識しなければ,何てことはない。

何てことはない,筈だ。

曲に合わせてターンをすると,目の前に仁の顔がある。

…何てことはない,筈だ。
さっきまでだって,ふつうに軽口を叩き合っていたのだ。

じゃあなんでこんなに照れくさいの。


「…およ」
「何よ」
「お前,背,縮んだ?」
「…は?」
マリアがぽかんとすると,仁は一拍置いてがはは,と笑う。
「あ,何だ,俺の背が伸びたのか」

そのままお互いに次の相手に移った。
それだけだったのだけど。

心臓よりももっと奥にあるどこかが,きゅ,と痛んだ。


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