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そらのしたで >>空の下で7

フォークダンスの後は表彰式と閉会式だ。
一旦応援席に戻った生徒たちは,それぞれ再びチームごとに列を作り,入場する。
すべての演目が終了しているというのに,待機する子どもたちは疲れを感じさせない様子で,がやがやと騒がしいままだ。

「いいなあれいこたちは。あたしも飛鳥君と踊りたかったあ〜」
そうときえが呟くと,きららもまた,
「そうよそうよ,羨ましかったわ」
と言う。
「えへへ」
嬉しそうなれいこに向ってゆうが,
「よかったわね」
と微笑みかける。
「でもさあ,うちのクラスだけなんだか並び方違ってたことない?」
ポテトが言うと,美紀が首を傾げた。
「そういえばそうねえ」
「他のクラスは背の順だったみたいだけど…」
「なんでだったのかな?」
「まあ,いいんじゃない,もう終わったんだし」
そう明るくラブが言うと,そうね,と皆あっさりと引き下がった。

いつものように先頭に戻ろうとするれいこに向って,ラブが小さな声で,
「…たぶん,気を利かせてくれたのよ」
と囁いた。
「え?どういうこと?」
聞き返したれいこにむかって,しーっとひとさし指を立てて,
「頑張ったれいこに,多分,ひろし君が,ね」
とウインクした。

…そういえば,あのとき列を指示したのは確かにひろし君だったなあ…。

もし本当にラブが言ったとおりだったとしたら,ひろし君に感謝だな。
れいこはそこまで考えて,あれ,と思った。

そういえば,自分と二人挟んで後ろに居たクッキーも,飛鳥と組んで踊った筈。
背の順から行けば飛鳥の次にくるはずのひろしも,当然れいこと,そしてクッキーと踊っていた筈だったが…。
さきほどの記憶を無理やり引っ張りだしてみたが,あのとき近くにひろしの姿はなかったように思える。

ひろしが列の便宜を図ったのなら,なぜひろしは自分とクッキーが当たるように並ばせなかったのだろうか。
れいこはちょっと気になったが,深く考えるのはやめよう,と思いなおした。
とりあえず,飛鳥君と踊れて良かったということにしておこう。





閉会式が済んだあとも,校庭は人がごったがえして騒がしい。
あちこちで,記念撮影が始まっていた。
6年3組も,旗の前に並んで記念写真を撮ろうということになった。
整列を終えて篠田がカメラを構えたとき,仁が「ちょっと待った!」と声を上げた。
「どうしたのよ?」
ポーズを既にバッチリと決めていたきららが,不満そうに問いかける。
それを余所に,仁は周りに居た他のクラスの連中に向って,お前らも来いよ!と声をかける。

「え,いいよ俺らは」
「そうだよ,お前らのクラスの写真だろ」
呼びかけられた連中はそう言って遠慮したのだが,仁はがはは,と豪快に笑い返す。
「何言ってんだよ!記念だからこそ,皆で撮るんだろ」
当然!とばかりに言い放った仁を見遣って,飛鳥も声をかける。
「そうだよ,一緒に撮ろう。皆で一緒に」

飛鳥を皮切りに,マリアも吼児もラブも…というように,3組の面々が次々と呼びかけ出した。
あれよあれよ,という間に周りに居た人間が整列させられる。
1組も,2組も,下級生も…。
仁が一際大きな声を出した。
「お前も混ざれよ!ホラ,早く!」
仁の視線の先にはウエダが立っていた。
ぽりぽりと頭を掻きながら,それでもやってきたウエダを見た美紀が嬉しそうに微笑んだ。


やがて旗を背にして,揃いのバッヂを胸につけた子どもたちの嬉しそうな顔が並ぶ。
さっきよりも大幅に後ろへ下がった篠田が,「いーかー!撮るぞ,じっとしてろー」と声を張り上げた。




今日という日は,もう二度とやって来ない

だから僕らは今この瞬間を大事にしたい



今,僕らはここに

ともに

こうして大地を踏みしめて

そらのしたで笑っている



結局篠田は,フィルムを全部使い切るまでたくさんの写真を撮った。
後にこれらの写真は,彼らの卒業アルバムの一頁を飾ることになる。


どの写真にも,この日の空に負けないくらいに晴れやかな顔をした子どもたちが映っていた。


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