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そらのしたで >>茜空1

片付けは遅くまでかかった。
正直体はしんどいし,早く帰りたい。
でも同時に,もうすこし運動会の余韻を味わっていたい気もする。


テントの撤収を体育委員会に任せて,僕は本部の方へ向かった。
児童会の後片付けもあるからだ。


ハラダさんが段ボールに備品を仕舞っていた。
僕はそれを手伝いながら,自分の気持ちを告げた。

ハラダさんの気持ちは嬉しいけど,クッキーのことがやっぱり好きなんだ,って。
ハラダさんはそう,と言った。
ごめん,と言ったらハラダさんはふふふ,と笑ってから「友達としてなら仲良くしてくれる?」と聞いてきた。
勿論だよ,って答えた。

そうこうしているうちに,片付けは終了した。
あとは備品を倉庫へ置いてくるだけだ。
女の子に重い物は持たせられないので,僕が段ボールを倉庫へ返しに行くことにして,ハラダさんと別れた。


廊下へ入ると少し肌寒い。
脇にある水道の蛇口から,誰かが閉め忘れたんだろう,ポタリポタリと水滴が落ちる音がする。
窓越しに校庭を見ると,すっかり片付けは終わっていて,皆が下校していくのが見えた。
もう,運動会は終わったのだ。
そう思ったら,胸のあたりが苦しくなった。
こういうのを,切ない,って言うのだろうか。


倉庫に段ボールを置いて,腰を伸ばす。
カーテンの隙間から西日が差しこんで,小さな埃が宙を舞っているのが見える。
きれいだな,とぼんやり思った。


教室に荷物を取りに行く。
戸口を開けると,皆帰ってしまったらしく,中には誰もいなかった。
がらんとして静かな教室はさびしい。
今朝はとくに騒がしかったから,なおさらだ。

着替えを終えて,机の上に腰かけた。
ぶらぶらと,足を振る。
こんなに体は疲れているのに,頭だけはやけに冴えている。

目を閉じて,さっきから浮かんでは消え,消えては浮かんでくる考えに身を任せた。
考えるたびに胸が痛いのに,
こんなに辛いのに,
でも僕はその想いから逃れられない。



報われないことが,こんなに辛いなんて思ってなかった。

胸がぎゅ,と痛くなって,息をするのも苦しくなって。

からだじゅう絡めとられて動けない。

こんな気持ちになるんだったら,僕は恋なんて知りたくなかった。

でももう手遅れだ。

僕はあのこが好きなんだ。

おさななじみという場所から動けないのだとしても,

あきらめることなんて,やっぱりできないんだ。

僕は,僕は,僕は



「…覚悟を決めろ」

小さく声に出して,僕は腹に力を込める。

腹がぐう,と鳴って思わず笑った。
こんな気持ちになっていたって,ちゃんとお腹は減るものなんだ。


早く帰って,ご飯をおなかいっぱい食べよう。
ぐっすり眠って,そしてまた笑えるようになろう。


えい,と勢いをつけて床に降りる。
足先がじーんと痺れた。


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