片付けは遅くまでかかった。
正直体はしんどいし,早く帰りたい。
でも同時に,もうすこし運動会の余韻を味わっていたい気もする。
テントの撤収を体育委員会に任せて,僕は本部の方へ向かった。
児童会の後片付けもあるからだ。
ハラダさんが段ボールに備品を仕舞っていた。
僕はそれを手伝いながら,自分の気持ちを告げた。
ハラダさんの気持ちは嬉しいけど,クッキーのことがやっぱり好きなんだ,って。
ハラダさんはそう,と言った。
ごめん,と言ったらハラダさんはふふふ,と笑ってから「友達としてなら仲良くしてくれる?」と聞いてきた。
勿論だよ,って答えた。
そうこうしているうちに,片付けは終了した。
あとは備品を倉庫へ置いてくるだけだ。
女の子に重い物は持たせられないので,僕が段ボールを倉庫へ返しに行くことにして,ハラダさんと別れた。
廊下へ入ると少し肌寒い。
脇にある水道の蛇口から,誰かが閉め忘れたんだろう,ポタリポタリと水滴が落ちる音がする。
窓越しに校庭を見ると,すっかり片付けは終わっていて,皆が下校していくのが見えた。
もう,運動会は終わったのだ。
そう思ったら,胸のあたりが苦しくなった。
こういうのを,切ない,って言うのだろうか。
倉庫に段ボールを置いて,腰を伸ばす。
カーテンの隙間から西日が差しこんで,小さな埃が宙を舞っているのが見える。
きれいだな,とぼんやり思った。
教室に荷物を取りに行く。
戸口を開けると,皆帰ってしまったらしく,中には誰もいなかった。
がらんとして静かな教室はさびしい。
今朝はとくに騒がしかったから,なおさらだ。
着替えを終えて,机の上に腰かけた。
ぶらぶらと,足を振る。
こんなに体は疲れているのに,頭だけはやけに冴えている。
目を閉じて,さっきから浮かんでは消え,消えては浮かんでくる考えに身を任せた。
考えるたびに胸が痛いのに,
こんなに辛いのに,
でも僕はその想いから逃れられない。
報われないことが,こんなに辛いなんて思ってなかった。
胸がぎゅ,と痛くなって,息をするのも苦しくなって。
からだじゅう絡めとられて動けない。
こんな気持ちになるんだったら,僕は恋なんて知りたくなかった。
でももう手遅れだ。
僕はあのこが好きなんだ。
おさななじみという場所から動けないのだとしても,
あきらめることなんて,やっぱりできないんだ。
僕は,僕は,僕は
「…覚悟を決めろ」
小さく声に出して,僕は腹に力を込める。
腹がぐう,と鳴って思わず笑った。
こんな気持ちになっていたって,ちゃんとお腹は減るものなんだ。
早く帰って,ご飯をおなかいっぱい食べよう。
ぐっすり眠って,そしてまた笑えるようになろう。
えい,と勢いをつけて床に降りる。
足先がじーんと痺れた。
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